赤道も暑すぎず北極も寒すぎず(南北熱輸送1)

熱帯は暑いけれど人は住めるし、シベリアも寒いけれど何とか人は住んでいます。

何とかなるのは地球が低緯度の熱を高緯度に運んでいるからです。これを南北熱輸送といいます。

そして実際の運び屋になるのが大気と海洋の大規模な運動です。

今回からしばらく気象現象のもとになる南北への熱輸送を考えます。

1.地球放射と太陽放射の緯度別収支

放射に関する一連の記事の中で、地球全体としては太陽放射と地球放射がつり合っているため、地表の温度が極端にならずに済んでいると学びました(温室効果の作用もありますが)。

でも地表を緯度別に見た場合はどうでしょうか。

太陽放射についていえば、低緯度では太陽高度が高いため放射量が多いのに対し、高緯度では太陽高度が低いので放射量が少なくなっています

一方、地球放射は地球全体から出ているため緯度による違いはそれほど大きくありません

ですから緯度別に見るとほとんどの場所で放射の収支はつり合っていません。次のイメージグラフをご覧ください。

このグラフは横軸を緯度、縦軸を放射量としたものです。

赤の曲線が地球が受け取る太陽放射量、青線が地球から出て行く地球放射量です。

黄色に塗られた範囲では太陽放射量の方が多く熱が過剰になっています。低緯度が暑いのはこのためです。

水色に塗られた範囲では地球放射の方が多く熱が不足しています。高緯度が寒いのはこのためです。

そして、二つの線が交わっている北緯・南緯38度付近では太陽放射量と地球放射量がつり合っています

このような状態がずっと続くと低緯度では暑くなり続き、高緯度では寒くなり続いてしまいます。それを解消するのが南北熱輸送です。

2.放射と熱輸送

放射と熱輸送の関係を地球の外から見たイメージが下のイラストです。

地球を横倒しにしているので真ん中の縦の赤線が赤道で左右に北極・南極があります。

黄色い矢印が太陽放射で低緯度では垂直に近い角度で、高緯度では斜めから降り注いでいます。

水色の矢印が地球放射です。図では省略していますが地表面全体から出ています。

このため低緯度では放射による加熱効果が顕著な一方、高緯度では放射による冷却効果が顕著になっています。

このようにしてできる緯度間の熱の差異を縮めるために、低緯度の余分の熱が高緯度に移動していくのが南北熱輸送の意義になっています。

図の赤い矢印は熱の移動方向を示しています。

全熱輸送とありますね。次回の記事で説明しますが熱の移動方法には幾つか種類があります。それら全てを合わせたものが全熱輸送です。

3.北向き全熱輸送

また、熱輸送というのは赤道から両極まで同じような量の熱が移動していくわけではありません。それを示したのが下のグラフ(イメージ)です。

横軸は緯度です。縦軸は熱が北方向にどれだけの量が移動しているかを示しています。

真ん中の横線より上がプラスなので、北向きに輸送されていることを表しています。

横線より下はマイナスで、これは南向きに輸送されていることを表しています。

このグラフから分かるのは北向きも南向きも中緯度付近の輸送量が最も大きいということです。

これは、中緯度帯では大気も海面温度も南北の温度傾度が特に大きいからです。

4.まとめ(冒頭のイメージ図参照)

▶ 38度より低緯度では太陽放射量が多い、高緯度では地球放射量が多い

▶ 低緯度から高緯度への熱輸送は中緯度付近が最も輸送量が大きい

次回からは3種類の熱輸送について考えていきます。

⇒ 「大気による顕熱輸送と潜熱輸送(南北方向2)