降水過程の基本要素は水分子、温度、エアロゾルです。今回は降水過程に関係する水分子の種類を整理してみます。
さらに飽和とは何かについても考えます。
この記事で扱うのは暖かい雨、冷たい雨、両方に共通する事柄です。
1.降水過程における水分子の種類
まとめると次のようになります(放送大学の講義を参考にしました)。
1-1. 水蒸気(気体)
水蒸気は雲と雨の素になるものです。まず、地表から水蒸気を含んだ空気塊が何らかの理由で上昇していきます。
上空で空気塊が冷えて水蒸気が凝結・凝固すると雲粒となります。といっても雲の中には引き続き水蒸気が漂っています。
1-2. 雲粒(液体と固体)
液体(水)の雲粒が水滴、固体(氷)の雲粒が氷晶です。
1-3. 降水粒子(液体と固体)
雲の中で作られ地表へと降ってくるのが降水粒子です。
液体の降水粒子が雨粒、固体の降水粒子が雪、雹、あられ等です。雪と雨が同時に降ってくることや溶けかかった雪をみぞれといいます。
1-4. 粒子の大きさ
雲粒と降水粒子の大きさの境を0.1mm としましたが、おおざっぱなものです。粒子の大きさについては「降水過程1」を参照してください。
2.飽和とは
雲ができるためには空気中の水蒸気が飽和・過飽和状態になることが必要です。
飽和とは空気に水蒸気が限界まで含まれている状態をいいます。下のイメージ図をご覧ください。
この図は密閉された容器に水が入っているとき、時間の経過とともにその上の空気が飽和になる様子を表しています。
2-1. 気液平衡
上の段の4つの四角(容器)を左から説明します。
■ 空気に水蒸気が全くないとき、水から水蒸気が蒸発していきます。まだ水蒸気2つ分を含むことができます。
■ 蒸発が進んで空気中に水蒸気がたまっていくと、空気から水面に飛び込む水蒸気が増えてきます。これを凝結といいます。
■ さらに蒸発が進むとある時点で蒸発する水蒸気量と凝結する水蒸気量が等しくなります。こうなると、見かけ上は蒸発も凝結も起きていないのと同じです。
そして、空気中の水蒸気はこれ以上増えも減りもせずに一定の量になります。この状態が飽和です。また、気液平衡とか相平衡ともいいます。
■ 一番右側の状態では飽和状態よりさらに水蒸気が多くなっています。この状態が過飽和です。
過飽和状態では蒸発より凝結の方が多いので時間を置くと次第に水蒸気が減って飽和になります。
■ まとめると、密閉された環境で温度が一定なら、ほっておいても飽和になるということです。
2-2. 気温が変化すると
次に下の段の4つの容器を見てください。上の段より気温が高くなっています。この場合も時間を置くとやがて飽和になります。
ただ、図を見て分かるように上の段と比べて飽和のときの水蒸気量が多くなっています。
これは、温度が高くなると空気中に含むことのできる水蒸気量が多くなるという原理から来ています。
2-3. 水蒸気量の表現方法
以下の2つがあります。量が増えると圧力も大きくなるので同じことを表しています(「水分表現の種類」を参照)。
◇ 水蒸気密度( g/m3 )
◇ 水蒸気圧( hPa)
飽和のときの水蒸気密度(水蒸気圧)を飽和水蒸気密度(飽和水蒸気圧)といいます。
3.空気塊の上昇による飽和状態の変化
3-1. 密閉された空間との違い
今度は雲の生成と飽和・過飽和の関係を調べます。次のイメージ図をご覧ください。
これは水蒸気を含む空気塊が上昇して過飽和になる過程をイメージしたものです。
先ほどの密閉された容器との違いは以下の点です。
◎ 大気は密閉されていない
◎ 空気塊は上昇に伴う断熱膨張によって温度が下がる
◎ 海上の空気塊であっても上昇して海面から離れると水とは接することができない
従って上昇していく空気塊の中では蒸発や凝結は起きない
◎ よって水蒸気量は変わらず、ただ気温だけが下がっていく
3-2. 断熱冷却による飽和・過飽和
上記の図は見たままですが簡単に説明します。
(1)未飽和
海上にある空気塊には水蒸気3つ分があります。気温が高いので飽和水蒸気圧は高く、まだ水蒸気1個分を含む余裕があります。
(2)飽和
断熱冷却によって気温が下がると飽和水蒸気圧が下がっていき、ある時点で飽和になります。
(3)過飽和
さらに上昇して気温が下がると飽和水蒸気圧も下がるので、水蒸気の量は変わらなくても過飽和になります。
過飽和になって行き場を失った水蒸気が集まれば雲粒の素となる水滴ができるはずです。
ところが、そう簡単には水滴はできません。カギとなるのは水の表面張力です。その仕組みはまた後日考察します。
4.まとめ
4-1. 降水過程における水分子の種類
▶ 水蒸気(気体)
▶ 雲粒⇒ 水滴(液体)、氷晶(固体)
▶ 降水粒子⇒ 雨粒(液体)、雪・雹・あられ(固体)
4-2. 飽和
▶ 飽和とは空気に水蒸気が限界まで含まれている状態
▶ 飽和水蒸気圧は気温できまる
温度が高くなると空気中に含むことのできる水蒸気量が多くなる
4-3. 空気塊の上昇による飽和状態の変化
▶ 未飽和⇒ 飽和⇒ 過飽和
次回の記事はこちら⇒「雲粒と雨粒の終端速度(降水過程5)」