エーロゾルの役割を水蒸気圧から見る(水滴の生成2)

今回は水蒸気圧の観点から雲粒に成長する微小水滴の生成におけるエーロゾル(エアロゾル)の役割について考えます。

水滴が発生するには水蒸気が多いに越したことはありません。

前回の記事では水蒸気の量を相対湿度を使い、過飽和の度合いを相対湿度と過飽和度を使って表現しました

水蒸気の量は水蒸気圧で表現することもできます。

さらに、エーロゾルが微小水滴の生成に果たす役割は飽和水蒸気圧で説明できます。では、順番に考えていきます。

1.「~に対する飽和水蒸気圧」?

飽和水蒸気圧について初めて学んだときに、飽和水蒸気圧の表(またはグラフ)が出てきましたね。

「温度が~℃のとき、飽和水蒸気圧は~hPa 」とあったように、飽和水蒸気圧は温度だけの関数だと習いました。

でも、降水過程を学んでいくと、よく「○○に対して飽和水蒸気圧が◆◆」といった表現が出てきます。

なに⁉温度だけで決まるんじゃなかったの?と思いますよね。

どうやら飽和水蒸気圧は相手を選ぶようです。

2.いわゆる飽和水蒸気圧とは

さきほど挙げたように「水分量の表現方法」のところで出てきた飽和水蒸気圧は以下の条件を満たすことを前提として値を出したものです。

 ◆ 平面の水面がある

 ◆ 水は純粋な水である

一言で言えば、平面の水面を持つ純粋な水に対する飽和水蒸気圧ということになります。

では、水滴のように平面の水面を持たない水や、純粋でない水に対する飽和水蒸気圧はどう変わるのでしょうか?

3.平衡水蒸気圧とは

平衡水蒸気圧という言葉は聞きなれないと思います。私もテキストの中で見たことはありません(「気象予報士試験 模範解答と解説 53回問6の解説で出てきます)。

私の理解では以下の通りです。(間違っていたらごめんなさい)

水滴が同じ大きさのまま存在し続けるには、水滴から飛び出す(蒸発する)水蒸気と水滴に飛び込む(凝結する)水蒸気の量が同じである、つまり気液平衡である必要があります。

それで私は、気液平衡にある水滴に対する水蒸気圧が平衡水蒸気圧、と解釈しました。

ですから平衡水蒸気圧と飽和水蒸気圧は同じように考えてよさそうですね。

でもこの記事では、水滴に対する飽和水蒸気圧と平面の水面に対する飽和水蒸気圧を分けて表現した方が分かりやすいと思ったので、水滴に対しては平衡水蒸気圧という言葉を使うことにしました。

そして、「~に対する飽和水蒸気圧(平衡水蒸気圧)」という場合、~となら気液平衡でいられるよ、その時の水蒸気圧のことだよ、と理解しておけば良いかと思います。

4.水滴の大きさと平衡水蒸気圧

前回の記事で説明したように、小さい水滴ほど表面張力は大きく、大きい水滴ほど表面張力は小さくなります。

理論上、小さな水滴が不安定ながら存在し続けるためには、水滴の大きな表面張力に打ち勝つほどの大量の水蒸気が周囲になければなりません。

それはつまり平衡水蒸気圧が非常に高くなければならないということです。

一方、大きめの水滴なら表面張力がそれほど強くないので、平衡水蒸気圧は低くなります。

まとめると、平衡水蒸気圧(飽和水蒸気圧)は水滴が小さいほど高く、大きいほど低くなります

そのことを示したのがイメージ図「水滴の大きさ・水溶性と飽和水蒸気圧」の左側の部分です。

5.吸湿性の良いエーロゾルと平衡水蒸気圧

左端の小さな円は実際には存在し得ないような、半径が極めて小さな水滴です。

表面張力は非常に大きく、この水滴に対する平衡水蒸気圧は飽和水蒸気圧に比べ極めて高くなっています。

では、その右、エーロゾルを核とした水滴はどうでしょうか?

エーロゾルを核とした水滴は ある程度の大きさがあるので表面張力はそれほど大きくなく、平衡水蒸気圧と飽和水蒸気圧の差も縮まっています。

特に吸湿性の良いエーロゾルは表面が水を十分吸収し薄い水の被膜で覆われるので、さらに低い水蒸気圧で水滴が存在できるようになります

その右は水平な水面です。水平な水面は無限の半径を持つ水滴とみなすことができます。本来の飽和水蒸気圧の数値は水平な水面に対するものです。

このように水滴の大きさと水蒸気圧には関係があることが分かります。

6.水溶性のエーロゾルと飽和水蒸気圧

飽和水蒸気圧は相手の性質によっても違ってきます。

溶液(化学物質が溶けた水)に対する飽和水蒸気圧は純粋な水に対する飽和水蒸気圧より低くなります。

エーロゾルが水溶性だと水滴に化学物質が溶け込み飽和水蒸気圧を下げます(図の右側)。

すると、水蒸気圧が飽和水蒸気圧をわずか超えただけで水滴が存在できます

7.海塩性のエーロゾルと飽和水蒸気圧

海塩性のエーロゾルは波しぶきが蒸発したときに生じるもので、半径が20㎛に達する巨大なものです。

さらにミネラル成分を含み水溶性吸湿性の性質を持っている、言わば いいとこ取りのエーロゾルで、水蒸気圧がわずかに飽和水蒸気圧に達していなくても水滴が存在することが可能です。

イメージ図「海塩性のエーロゾルと飽和水蒸気圧」は、エーロゾルと飽和水蒸気圧の関係をまとめたものです。

◇ エーロゾル(特に吸湿性の良いエーロゾル)があると水滴に対する平衡水蒸気圧(飽和水蒸気圧)が下がる

◇ 海塩性のエーロゾルの場合、水平な水面に対する飽和水蒸気圧が下がり、その分、水滴に対する平衡水蒸気圧も下がる

8.まとめ

▶ ~に対する飽和水蒸気圧

   ~との間で気液平衡になる時の水蒸気圧

▶ いわゆる飽和水蒸気圧

   平面の水面を持つ純粋な水に対する飽和水蒸気圧

▶ 水滴に対する飽和水蒸気圧⇒ 

   水滴の半径が小さいほど高く、半径が大きいほど低くなる

▶ 溶液に対する飽和水蒸気圧⇒ 

   純粋な水に対する飽和水蒸気圧より低くなる

▶ エーロゾルを核とする水滴に対する飽和(平衡)水蒸気圧

   エーロゾルに以下の特徴があると、より低くなる

   ● 大きい

   ● 吸湿性が良い

   ● 水溶性がある