線だらけのエマグラムを見ると・・心が折れそうになりますが、とりあえず雲(特に積乱雲)の底とてっぺんを知ろうという軽い?気持ちで基礎を学んでいこうと思います。
この記事ではまだ雲のてっぺんは出てきません。エマグラムの知識0からのスタートです。
また、エマグラムには飽和混合比、露点温度、湿数などが出て来ますが、それぞれの意味については次の記事を参照してください。
⇒「混合比、比湿、露点温度」
目次
1.エマグラムの利用法
エマグラムの利用目的は大気の状態を視覚的に知るということです。例として次に挙げるものが含まれます。
● 大気の成層状態を把握
● 大気が持っている潜在的なエネルギーを分析
● 大気の不安定性の分析
● 大気の運動を推察
● 上空の前線の解析
● 空気塊の上昇に伴う温度・気圧・混合比の変化を知る
● 積乱雲の発生の予測
2.エマグラムの目盛り
エマグラムには3種類の目盛りがありますが、それぞれについて解説します。
まずは横軸と縦軸です。
2-1. 温度[℃](下の横軸)
右に行くほど高くなっています。気温、露点温度、湿数を読むときに使います。
2-2. 高度[hPa](縦軸)
この場合の高度はメートルではなく気圧[hPa] で表します。それで気圧高度とも呼ばれています。対数スケールで表し、上部ほど高度が高くなっています。
「エマグラムの目盛り1」のグラフでは等温度をピンクの線、等高度を水色の線で示しています。
2-3. 飽和混合比[g/kg](上の横軸)
ここに飽和混合比の目盛りと後で出て来る等飽和混合比線を加えると上記のグラフになります。
飽和混合比が表すものはおおざっぱに言えば水蒸気の量です。
3.3種類の線
下のグラフをご覧ください。
3-1. 乾燥断熱線(オレンジの実線)
最も傾きが大きい線です。
また、実際のエマグラムでは線上に温位を示す数値が書かれています。
3-2. 湿潤断熱線(水色の太い破線)
傾きが中くらいで曲線になっています。分かり易いようにカーブを誇張しています。
実際の線状には相当温位を示す数値が書かれています。
3-3. 等飽和混合比線(緑の細い破線)
等飽和混合比線は飽和混合比の数値が等しい部分を結んだ線です。
また、湿潤空気塊の気圧変化に対応した露点温度ともいえます。
3種類の中で最も傾きが小さい線です。
傾いている理由はこちらの記事をご覧ください。
⇒ 「等飽和混合比線はなぜ傾いているか?(エマグラム入門3)」
ここまでで取り上げた5つの線がエマグラムの用紙にあらかじめ印刷されています。単純化して数値を省略すると上のグラフのイメージになります。
これらの目盛りや線から上昇する空気塊がどれくらいの高度でどれくらいの温度になるかが分かります。
このグラフに実際に観測された大気の温度の線(状態曲線)と実際に観測された露点温度の線を描くことで大気の状態が分かります。
この記事では空気塊の上昇について調べます。状態曲線と露点温度の線については次回の記事で取り上げます。
4.周辺空気の水蒸気量
4-1. 空気塊が含むことのできる最大水蒸気量
ここからは空気塊を任意の高度(例えば1000hPa)から上昇させていったときにどのような動きをするか考えます。
空気は温度が高いほど多くの水蒸気を含むことができます。そして水蒸気の量によって空気塊の動きは違ってきます。
ですから空気塊の出発時点の周辺空気がどれくらいの水蒸気を含んでいるか先に知る必要があります。
次のイメージ図「エマグラムの考え方1」をご覧ください。
ここからしばらく水蒸気の量を水色の丸の数で表現します。
任意の気圧高度(例えば1000hPa)Aにある空気の気温の数値がAだとします。
この気温Aを通る等飽和混合比線を上にたどると水蒸気10個だと分かります。これはこの空気が最大で水蒸気10個を含むことができるという意味です。
4-2. 実際の水蒸気量
次に、この空気を気圧を変えないまま温度を下げていくとします。
気温が下がるにつれて空気が含むことのできる水蒸気量が減っていきます。
ある気温になると含むことのできる水蒸気量と実際の水蒸気量が同じになります。つまり飽和に達します。湿度(相対湿度)100%の空気です。
この時の温度が露点温度になります。図の例では露点温度Bです。
露点温度Bを通る等飽和混合比線を上にたどると水蒸気8個になっています。
ということは、気温Aにある空気の実際の水蒸気量が8個であることが分かります。
小ホールで例えてみます。客席が10席あるけど満席ではないとき、どうやったらお客さんの人数が分かるでしょうか?人数を数えればいい?まあ、そうですが他の方法もあります。
もっと小さな9席あるホールに移ってもらいます。まだ空席があるので もっと小さな8席あるホールに移ってもらい、ようやく満席になりました。
これでお客さんの人数が8人だと分かりました(面倒くさい)。
5.空気塊の上昇(飽和まで)
今度はこの空気の一部を空気塊として上昇させてみることにします。実際の気象現象では何らかの理由で空気が持ち上げられるケースになります。
下のイメージ図「エマグラムの考え方2」をご覧ください。
上昇させる空気塊は水蒸気を含む湿潤空気です。上昇するに従って温度が下がるので含むことのできる水蒸気量は少なくなっていきますが、最初のうちは余裕があります。
ということで、飽和に達するまでは水蒸気の凝結はなく潜熱の放出がないので、乾燥断熱線に沿って上昇します。
しかし、ある地点で飽和状態になります。
既に露点温度での水蒸気量が8個だと分かっているので、空気塊は含むことのできる最大水蒸気量が8個のときに飽和に達すると分かります。
イメージ図では露点温度を通る等飽和混合比線と乾燥断熱線が交わったところが空気塊が飽和した地点となっています。
6.空気塊の上昇(飽和から)
次のグラフのイメージ図をご覧ください。
空気塊が飽和に達してからは水蒸気の凝結が生じるので、湿潤断熱線に沿って雲を作りながら上昇して行きます。
飽和に達したときの高度を持ち上げ凝結高度(LCL)といいます。
また、この高度が雲の底になるので雲底高度とも呼ばれます。
空気塊の上昇はまだ続きますが、次回は実際に観測された気温と実際に観測された露点温度がエマグラム上でどのように表現されるか考えていきます。