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対流不安定と大気の安定度のまとめ

前回 取り上げた相当温位は大気の安定度を測るのに役立ちます。

大気の安定度については既に気温減率温位を使う方法を考察しました。

ただ、実際の大気には水蒸気が含まれているので、相当温位を外すわけにはいきません。

そして、大気の安定度という点では相当温位と対になっているのが対流不安定です。では、対流不安定とは何でしょうか?

1.対流不安定とは

最初に確認しておきたい点があります。

これまでは個別の空気塊が上昇したとき、その空気塊が上昇し続けるかどうかで大気の安定・不安定を判断してきました。

今回考えるのは個別の空気塊ではなく一定の層をなす空気層が、ゆっくり持ち上げられた時に、その層が安定か不安定か判断するということです。では先に進みます。

対流不安定とは、大気下層ほど高相当温位の空気が存在している状態、または上層ほど相当温位が低い状態をいいます。

言い換えれば、上層には低温・乾燥の大気、下層には高温・多湿の空気があるということです。

この状態だけで直ちに大気の状態が不安定になって雲が発達するということではありません。比較的安定しているといえます。

でも、ここで何らかの理由によって気層全体が上昇すれば、不安定な状態へと変化します。

ですから、対流不安定とは対流が起きたら不安定になる状態ともいえます。

「何らかの理由」にはどんなものがあるかは記事の最後の方で取り上げますが、前線に伴って生じる上昇気流などがあります。

2.不安定化する過程

気層全体が上昇するとなぜ大気が不安定になるか、次のイメージ図で説明します。1000mずつ上昇していくとします。

● 上昇する前(図の右側)

先ほどの図にあったように上昇する前はこの気層の状態は安定しています。上層と下層の気温差は5℃ です。

● 下層が飽和するまで上昇する(図の中央)

ここで何らかの理由で気層全体が図の真ん中の高度まで上昇したとします。この高度は下層の空気が飽和した時点の高度とします。

下層は水蒸気を多く含んでいますが、飽和するまでは乾燥断熱変化によって気温が低下します。1000m につき10℃低下して20℃になります。

上層はもともと乾燥しているので、乾燥断熱変化によって気温が下がり15℃になります。ですから下層と上層との温度差は5℃で最初の状態と同じです。

● さらに気層全体が上昇(図の左側)

飽和に達した下層の空気は上昇しながら水蒸気が凝結するため、今度は湿潤断熱変化によって気温が下がっていきます。1000mにつき5℃低下して15℃になります。

一方、上層は乾燥しているので引き続き乾燥断熱変化によって1000mにつき10℃の低下で気温は5℃になります。すると上層と下層の気温差は10℃に広がります。

気温差が大きくなるということは、それだけ大気が不安定になることを意味しています。

このようにじっとしていれば安定しているのに、動き出すと不安定になるというのが対流不安定な状態であるといえます。

また、潜在的に不安定になりえる要素を持っていて、飽和と同時に不安定が顕在化するという意味で「ポテンシャル不安定」という呼び方もされています。

3.グラフ化すると

今度は上記の考え方を下記の簡略化したグラフで説明します。高度と温度は説明しやすいように設定してあります。状態曲線はグラフが複雑になるので省略してありますが、気温減率をその都度説明します。

縦軸・・高度(m) 横軸・・気温(℃)

丸・・・下層   四角・・上層

● 上昇する前(赤の状態)

下層(A)・・高度:0m 気温:30℃ 

上層(B)・・高度:2000m 気温:25℃

気温差・・5℃ (赤の矢印)

気温減率・・ 0.25℃/100m

この時点では大気の状態は安定しています。

● 下層が飽和するまで上昇する(赤から緑)

下層(A’)・・高度:1000m 気温:20℃ 

上層(B’)・・高度:3000m 気温:15℃

気温差・・5℃ (緑の矢印)

気温減率・・ 0.25℃/100m

最初の状態から何らかの理由で気層全体が図の真ん中の高度まで上昇したとします。この高度は下層の空気が飽和した時点の高度とします。

下層は水蒸気を多く含んでいますが、飽和するまでは乾燥断熱変化によって気温が低下します。1000m につき10℃低下して20℃になります。

上層はもともと乾燥しているので、乾燥断熱変化によって気温が下がり15℃になります。ですから下層と上層との温度差は5℃で最初の状態と同じです。

この時点までは大気は安定しています。

● さらに気層全体が上昇(緑から青)

下層(A”)・・高度:2000m 気温:15℃ 

上層(B”)・・高度:4000m 気温:5℃

気温差・・10℃ (青の矢印)

気温減率・・ 0.5℃/100m

飽和に達した下層の空気は上昇しながら水蒸気が凝結するため、今度は湿潤断熱変化によって気温が下がっていきます。1000mにつき5℃低下して15℃になります。

一方、上層は乾燥しているので引き続き乾燥断熱変化によって1000mにつき10℃の低下で気温は5℃になります。すると上層と下層の気温差は10℃に広がります(青の矢印)。

気温差が大きくなるということは、それだけ大気が不安定になることを意味しています。

● さらに上昇すると

グラフには描いていませんが、この後さらに水蒸気を凝結させながら上昇していくと、上層と下層の気温差はだんだん大きくなっていき不安定な状態が続きます。

4.大気の安定度のまとめ(グラフ)

ここ最近の記事で大気の安定度を見る方法について考えました。3つの方法を比べると、このようなイメージ図になります。

縦軸はどれも高度ですが、何を横軸に取るかで3つに分けられています。

● 温度(左)

左のグラフは状態曲線(点線)が乾燥断熱線、湿潤断熱線と比べてどの位置にあるかで判断しています。

● 温位(中央)

高度別の温位分布を線で引いたときの線の傾きによって判断します。

● 相当温位(右)

高度別の相当温位分布を線で引いたときの線の傾きによって判断します。

線が左に傾いているときは上空ほど相当温位が低いので、今回の記事で考えたように対流不安定になります。

高度によって相当温位が変わらない場合は中立に、上空ほど相当温位が高くなっているなら大気は安定しているということになります。

5.大気の安定度のまとめ(表)

さらに温度、温位、相当温位の違いを次の表にまとめました。

大気の安定度を測るのに欠かせない要素は温度、つまり気温です。

さらに高度の異なる気層の気温を正確に比較するには高度をそろえる必要があります。

高度をそろえるときに断熱変化による昇温が生じるので、それを加えたのが温位です。

さらに水蒸気の凝結による昇温効果(潜熱)を加えたのが相当温位です。

6.気層が上昇する原因

6-1. 下層収束

下層で空気が集まると、行き場を失った空気が上昇します。低気圧や台風に伴う上昇気流などが含まれます。

6-2. 地形

空気が山などにぶつかって上昇します。台風接近時によく生じます。

6-3. 対流

日射などで地上付近の空気が暖められて上昇します。

または、上空の寒気(重い空気)が下降して下層の軽い空気が上昇することもあります。

 

6-4. 前線

暖気と寒気がぶつかって暖気が押し上げられます。

次回はここまで取り上げたことを土台に、エマグラムについて考察していきます。