昇華凝結過程を簡単に説明すると、氷が水から水蒸気を奪って成長するというプロセスです。
昇華凝結過程は以前の記事「冷たい雨の全体像」で簡単に紹介しましたが、今回は模式図を使ってもう少し掘り下げてみます。
1.飽和水蒸気圧は付き合う相手によって変わる
前回の記事「飽和水蒸気圧は温度と付き合う相手によって変わる」で考察した内容の一部を復習としてまとめます。
◆ 純粋な水に対する飽和水蒸気圧より溶液に対する飽和水蒸気圧の方が低い
◆ 純粋な水と溶液が隣接していると、全体として水蒸気は純粋な水から溶液に移動する
◆ その結果、純粋な水の量は減り溶液の量が増える
同様のプロセスは過冷却水と氷についても当てはまると類推できます。
◇ 過冷却水に対する飽和水蒸気圧より氷に対する飽和水蒸気圧の方が低い
◇ 過冷却水と氷が隣接しいる時、水蒸気は全体として過冷却水から氷に移動する
◇ その結果、過冷却水は減り氷が成長する
2.過冷却水滴と氷晶
ここまで平面な水面を前提に考えてきました。でも雲の中には平面な水面はありません。
気温が0℃以下だと、あるのは過冷却水滴と氷晶です。
水平な水面と同じ理屈で言えば、過冷却水滴から水蒸気が氷晶に移動し、過冷却水滴が小さくなり氷晶が大きくなるはずです。
実際、そうなっています。模式図を使って考えていきます。
3.昇華凝結過程の仕組み
模式図「昇華凝結過程のプロセス」をご覧ください。
図では水蒸気の量を水色の丸の数で示しています。丸が多ければ水蒸気圧も高くなります。
過冷却水滴に対する飽和水蒸気圧を丸5個分、氷晶に対する飽和水蒸気圧を丸3個分とします。
左上から順に説明します。
A 0℃以下の雲内で過冷却水滴と氷晶が隣り合って存在します。
過冷却水滴の周りには4個分、氷晶の周りにも4個分の水蒸気がありますが、空気中なので境目はありません。
過冷却水滴に対する飽和水蒸気圧は丸5個分なので、まだ未飽和です。
そこで過冷却水滴から水蒸気1個分の水分子が飛び出して行こうとします。
氷晶に対する飽和水蒸気圧は丸3個分なので、1個分余計にあります。つまり過飽和です。
すると、余った水蒸気1個分が氷晶に飛び込んで行こうとします。
B 過冷却水滴は水蒸気1個分が出て行ってしまったので小さくなってしまいます。
逆に氷晶は水蒸気1個分がくっついて大きくなります。
この時、気体である水蒸気は液体の水になることなく直接 氷にくっついて自身が氷になってしまいます。つまり昇華します。
過冷却水滴の周りには水蒸気5個分、氷晶の周りには水蒸気3個分があるようになります。
すると、氷晶の周りの方が言わば広々しているので、過冷却水滴の周りにある水蒸気1個分が氷晶側に移動しようとします。
C 再び過冷却水滴の周りには水蒸気が4個分、氷晶の周りには水蒸気4個分があるようになります。
Aの時と同じように過冷却水滴から水蒸気1個分の水分子が飛び出して行こうとし、水蒸気1個分が氷晶に飛び込んで行こうとします。
D Bの時と同じように過冷却水滴は小さくなり、氷晶は大きくなります。
これを繰り返し氷晶はどんどん成長していきます。これが昇華凝結過程です。
成長した氷晶は雪、融ければ雨として降ってきます。
冷たい雨の降水過程には凝結過程やライミングがあります。
別の機会に取り上げる予定です。