混合比は大気中の水蒸気量を表すのにとても適しています。それは混合比の保存と関係があります。その理由をこの記事で考察します。
さらに混合比は熱力学の分野に出てくるエマグラムでも空気の湿り具合を表す物差しとして使われているので、しっかりと理解しておきたいですね。
1.どんな変化で混合比は保存されるのか?
さっそく上記イメージ図「混合比の保存(1)」をご覧ください(下にもあります)。見たままですが少し説明します。
右下の丸Aを一つの空気塊とします。空気塊を用いるのは説明しやすいからです。
大前提として空気塊がこの図のどこに位置するとしても水蒸気量は変わらず水蒸気の凝結もないとします。
1-1. 体積・密度・気圧
まず、この空気塊が温度を変えずに高度を上げBになったとします。
実際には上昇すれば断熱変化により温度は下がりますが、ここでは理屈を知るために敢えて温度は変化しないものとします。このような変化を等温変化といいます。
上空では気圧が下がるため空気塊の体積は大きくなります。
密度は質量を体積で割って算出するので小さくなります。
体積が大きくなり密度が小さくなると、単位面積にぶつかる分子の数が少なくなるので気圧は下がります。
1-2. 温度・気圧
次に最初の空気塊Aを高度を変えずに(つまり体積を変えずに)温度を下げCになったとします。このような変化を定積変化といいます。
温度が下がると気圧は下がります。
以上いずれの変化があっても混合比は一定のままです。
まとめとしてイメージ図が表しているのは混合比は体積・密度・気圧・気温に対して保存されるということです。
2.混合比の保存を水蒸気密度から確認する
ここからは混合比保存の仕組みについて調べていきます。
イメージ図「混合比の保存(2)」をご覧ください。
◎ A→B 体積の変化
さきほどの図と同じ要領ですが、空気塊Aが移動してBになったとします。
乾燥空気の分子も水蒸気の分子もばらけてしまっていますが、分子の数つまり質量は変わらないので、質量比である混合比も変わりません。
変わったのは体積です。体積が10倍になったので、乾燥空気の密度と水蒸気の密度はそれぞれ10分の1になりました。ですが、密度で計算しても混合比はAと変わりません。
◎ A→C 温度の変化
温度が変わっても密度は変わらないので混合比はもとのままです。
3.気圧と体積・温度の関係
混合比を気圧の観点で考える前に気圧がどのようなときに変化するのか調べてみます。下のイメージ図「混合比の保存(3)」をご覧ください。
3-1. 気圧と空気分子
気圧とは空気の重さを示すものですが、混合比など水分量表現について考える場合は気圧を単位面積(1m2) にかかる分子の衝撃の強さ(力)としてとらえることにします。
気圧についての2つの捉え方についてはこちらの一連の記事を参照してください。
⇒ 「気圧とは気柱の重さか分子の衝突か?」(No.1~4)
衝撃の強さ(気圧)には次の2つの要因が関係します。
◆ 分子の数・・分子の数が多い(密度が大きい)ほど強くなる。
◆ 分子の運動・・分子が動く速さが速い(温度が高い)ほど強くなる。
これは気体の状態方程式 $P=ρRT$ からも分かりますね。
3-2. 気圧と体積・温度の関係
図から具体的に考えてみます。
◎ A→B 体積の変化
空気塊の気圧を最初の状態Aと膨張し体積が大きくなったBとで比べてみましょう。
A,Bとも温度は変わらないので分子の速さによる気圧に変化はありません。
しかし、BはAより分子がばらけて存在している(つまり密度が小さい)ので、単位面積に衝突する分子の数は少なくなります。その分、気圧は低くなります。
◎ A→C 温度の変化
CはAより温度が低い、つまり分子のスピードが遅いので、その分、気圧が低くなります。
このように気圧は体積(密度)と温度の影響を受けることが分かります。
4.混合比の保存を水蒸気圧から確認する
今度は混合比が保存される仕組みを気圧を使って具体的に調べてみます。イメージ図「混合比の保存(4)」をご覧ください。
4-1. 気圧から混合比を求める式
図に書かれている式の混合比Wの単位は g/g です。分母と分子に1000をかければ g/kg で表せます。
この式から分かるのは混合比の変化は e/P の値の変化で決まるということです。
ここで気を付けたいのは、Pは乾燥空気ではなく湿潤空気(乾燥空気+水蒸気)の圧力であるということです。一般に言う気圧です。
すると、この式は混合比ではなく比湿を求める式ではないだろうかと思えるかもしれません。
でも、この式は混合比の厳密な値ではなくおおよその値を求める式なので、この式で混合比を求めることができるとみなしています。
4-2. 混合比の保存を水蒸気圧から確認する
◎ A→B 体積の変化
既に述べたように空気塊を最初の状態Aから温度を変えずに高度を上げBにすると、体積は大きく密度は小さく、気圧は低くなります。
このとき、乾燥空気の圧力だけでなく水蒸気圧も同じ割合で下がることになります。ですから気圧の比はAと変わりません。
◎ A→C 温度の変化
空気塊をAから体積を変えずに温度を下げCにします。
温度が低いということは分子の速さが遅いということですが、その速さを矢印の長さで表しています。
速さが遅くなると気圧が下がります。この場合も乾燥空気、水蒸気、どちらも同じ割合で気圧が下がるので、両者の気圧比はAと同じままです。
このようにして、密度や温度によって気圧が変化しても混合比は変わらないことが理解できます。
5.結論
《 混合比は体積・密度・気圧・温度に関し保存される 》
混合比は等飽和混合比線という姿でエマグラムに登場します。そこからは熱力学の分野として学ぶので頑張ってください(と自分に言っております)。