澄み切った青空と真白な雲、雨上がりの虹、どれも光が空に描いた芸術、私はそう感じています。
ということで(?)今回は太陽光の散乱などによって生じる大気光象を取り上げます。
目次
1.大気光象とは
大気光象とは、大気中の空気分子、水滴、氷晶、エアロゾルなどによって、太陽や月の光が反射、屈折、散乱、回折などを起こすことによって見える光学現象を指します。
主な大気光象には青い空、白っぽい空、夕焼け、虹、ハロなどがあります。
上の表は大気光象を粒子と光の組み合わせで分類したものです。このうちいくつかを今回調べていきます。
2.散乱、屈折、反射とは
専門的な説明は別として、ここでは太陽光が大気に入ってきた場合に限って考えます。
2-1. 散乱
◆ 電磁波が分子や粒子に当たって二次的な電磁波が周囲に広がる現象
後に述べるレイリー散乱の場合、散乱強度は電磁波の波長の4乗に反比例します。ですから、波長が短いほど大きくなります。
2-2. 屈折
◆ 電磁波が密度の異なる不連続な物質層を通過する際に電磁波の進行方向の角度が少し変化する現象
屈折率は波長が短いほど大きくなります。
2-3. 反射
◆ 電磁波がある物質の表面に当たり、電磁波の入って来た方向に跳ね返す現象
以上を踏まえた上で、粒子の大きさという観点から どんなタイプの散乱等が起きるか考えてみます。
3.散乱と粒子の大きさ
粒子の大きさによって散乱のタイプが異なります。3つのタイプを下のイメージ図から概観します。
3-1. レイリー散乱
◆ 波長>粒子の半径
レイリー散乱は電磁波の波長が粒子の半径より非常に大きい(10倍以上)ときに発生し、青空や夕焼けの原因となります。主な粒子は空気分子です。
イメージ図をご覧ください。波打つ矢印を可視光線(光)とします。波長が短いのを青い光、波長が長いのを赤い光とします。
光が大気に入ってくると、黄色で表された空気の分子に当たります。
既に述べたように波長が短いほど散乱強度は大きくなります。
イメージとしては、波長の短い青い光は直線的に進むため空気分子に衝突しやすく散乱し易いという感じです。
一方、波長の長い赤い光は空気分子をかわすように曲がりくねって進むため衝突しにくく散乱しにくいという感じです。
3-2. ミー散乱
◆ 波長 ≒ 粒子の半径
ミー散乱は光の波長と粒子の半径の大きさが同程度のときに生じ、白い雲や白っぽい空に関係します。粒子としては雲粒やエアロゾル等があります。
ミー散乱による散乱強度は光の波長にあまり依存しません。そのため、どの色の光も散乱し光が混ざって白っぽく見えます。
3-3. 幾何光学的な電磁波の進行
◆ 波長<粒子
幾何光学的な電磁波の進行(または幾何光学的散乱)は光の波長に比べて極めて大きな粒子によって生じ、虹などの現象を生じさせます。主な粒子は雨粒です。
図では、光が雨粒に入ってきたとき、2回の屈折と1回の反射で外に出て行くことを示しています。
幾何光学的な電磁波の進行は屈折や反射によるものなので散乱には入らないかもしれませんが、散乱の一種としているテキストが多いようです。
4.大気光象
ここからは、一つ一つの大気光象の起きる仕組みを調べていきます。
4-1. 青い空
レイリー散乱によって生じる現象の一つが日中の空の青さです。
下の図は右上が青い空、右下が夕日を表しています。白い矢印は太陽光、黄色の丸は空気分子です。まず、図の右上側を見てください。
太陽光が大気に入ると波長の短い光ほど散乱強度が強いので、早い段階で、つまり上空の高い所で散乱が始まります。
可視光線の中で最も波長が短いのは紫色の光です。紫色の光は図にあるように地表から離れたところで散乱し、しかもエネルギーが小さいので地表に届く前に減衰し地上からは見えません。
次に波長の短いのは青い光です。青い光は他の波長の光より散乱強度が強く散乱光が地上まで届きます。青より波長の長い光はあまり散乱せずに地表まで届きます。
そのため青い光の散乱光だけが目に入り日中は空が青く見えるというわけです。
4-2. 赤い夕日
日の出や日没の頃に太陽が赤く見えたり朝焼け、夕焼けが見えるのもレイリー散乱のおかげです。
上の図の右下側を見てください。夕日を考えてみます。
夕方になると日差しは斜めから入ってきます。ということは太陽光は大気の中を長い距離進むことになります。
太陽光は波長の短い光から順に散乱していきます。紫→青→緑→黄色→橙→赤という順番です。
地表までの距離が長いため波長の短い方の光は地表に届く前に散乱しきってしまいます。一方、波長の長い橙や赤の散乱光は地表まで届きます。
それで私たちの目には空や雲が橙や赤に染まって見えることになります。
4-3. 白い雲と白っぽい空
これらはミー散乱によって生じます。上の図の左側を見てください。
太陽光が雲粒に当たるとミー散乱が起きます。散乱光が白っぽいので雲は白く見えます。
また、大気中にエアロゾル等の粒子が多くあるときもミー散乱が生じて白っぽい散乱光が地表に届き、空が白っぽく見えます。
4-4. 虹
虹は幾何光学的な電磁波の進行(幾何光学的散乱)によって生じます。下のイメージ図をご覧ください。
虹はよく雨が上がった後、太陽と反対側に見えます。虹の見える方角ではまだ雨粒が大気中にあります。
そこに太陽の光が差し込むと、太陽光が雨粒に入って次の現象が起きます。
❶ 雨粒の表面で光が屈折
光の屈折率は波長によって異なるため光が分光します。
青い光と赤い光で比べてみると、青い光は波長が短いので屈折率が大きく、図のように進行方向が大きく曲がります。赤い光はあまり曲がりません。
❷ 雨粒の反対側で反射
波長ごと(色ごと)に分かれた光は雨粒の反対側で反射します。
❸ 雨粒から出るときに屈折
反射して戻ってきた光は雨粒から外に出るときにもう一度屈折します。既に色ごとに分かれた光はさらに違った方向に出ていきます。
❹ 虹が見える
図を見ると分かると思いますが、人間の目には7色(または6色)の光が違った方向から入ってきます。
波長の長い赤は外側に短い紫は内側に見え、虹の誕生となります。
ここまでで主な大気光象発生の仕組みを取り上げました。
他にも様々な大気光象がありますが、細かく扱うと長くなってしまいます。なので、ここで一旦終わりとします。どれも美しくて面白いので、いつか取り上げてみたいと思っています。