前回 取り上げた気温減率とこれから学ぶ温位はどちらも大気の安定度を知るのに必要なものです。では、温位とは何でしょうか?
1.温位の定義
温位とは空気塊を乾燥断熱的に1000hPa の高度に移動させたときの温度のことです。
あるいは、「温位は異なる気圧面にある空気塊の温度を客観的に比較する物理量」(「気象予報士かんたん合格テキスト 学科一般知識編」より)ということもできます。
温位には気温と気圧、両方が関わっています。
2.温位の考え方
早速、冒頭(下にもあります)のイメージ図を見てください。
2-1. どっちが大きい?
図の左上に豚さんと赤ちゃんのイラストがあります。
左端に描かれた豚さんと赤ちゃんとでは赤ちゃんの方が大きく見えます。
でも、豚さんは遠くにいるから小さく見えるだけで、豚さんを赤ちゃんの隣まで連れて来ると豚さんの方が大きいことが分かります。
このように、同じ位置で比べないと本当の大きさは分かりません。
2-2. どれが暖かい?
同じことは空気の温度にも当てはまります。図の丸は空気塊(気塊)を表しています。図の下が地面、上が上空です。
では1つの例として、図のA、B、C の空気塊のうち、どれが実際には一番 暖かいでしょうか?
数字だけ見るとAですね。でも対流圏では高度が高いほど気温は低くなります。ですから高さが違うと単純には比べられません。
そこで温位の定義にあったように、上空にある空気塊、BとCを1000hPa まで乾燥断熱的に移動させてみます。
すると、1000hPa における気温はB’ が20℃、C’ が23℃となるので、「実際の」温度はCが一番高いことが分かります。
3.温位の計算
例として空気塊Bで計算します。また、1000hPa の高度を0m (地上)と仮定します。
Bは高度1000m で10℃です。乾燥断熱減率を当てはめると100m下降で1℃上昇なので、地上では20℃になります。
これを絶対温度で表すと、20+273=293 で 293K です。
この値がBの温位です。温位の記号はθ(シータ)、単位はK(ケルビン)です。
同じように計算すると、空気塊Aの温位は290K、空気塊Cの温位は296K になるので、Cが最も暖かいことが分かります。
4.温位の保存
温位は乾燥断熱変化させて数値を求めるので、空気塊が含む水蒸気が凝結しない限り高度が変わっても数値は変わりません。つまり温位は保存されます。
水蒸気が凝結する場合は、後日 別の記事で取り上げる相当温位のところで考えます。
温位の保存について、次のイメージ図から説明します。
この図は気温を横軸、高度を縦軸としたグラフです。丸が空気塊です。
暖色が強いほど温度が高く、寒色が強いほど低いとします。(オレンジよりピンクの方が暖色だったかな?あまり厳密に考えないでください)
1. 高度P(B)
高度Pに気温がピンクの空気塊があるとします。
2. 高度 1000hPa (A)
空気塊を1000hPa まで降下させます。乾燥断熱変化によって気温は上昇し、オレンジ色になります。このオレンジ色の気温がそのまま空気塊の温位になります。
3. 高度が違っても(B~D)
一旦温位が決まったなら図にあるように高度が違っても温位は変わりません。
例えば空気塊をもともと あったBの位置から高度C、高度Dへと上昇させたとします。空気塊の温度は緑、青紫色へと低下しますが、温位はそのままオレンジです。
このように空気塊が乾燥断熱線に沿って移動する(=凝結がない)限り温位は保存されます。
また、同じ乾燥断熱線上にある空気塊の温位は全て同じになります。
5.温位と気温・気圧
温位は絶対温度に比例し、そのときの気圧に反比例します。
気温が高くなれば温位は高くなり、気圧が低くなると温位は高くなります。
そのことを示したのが次のイメージ図です。空気塊Aを基準とします。
1. 空気塊A
高度がP、気温が青の空気塊Aを1000hPa まで下げた時(A’)の気温(薄い緑)が温位となります。
2. 空気塊B
次に高度が空気塊Aと同じで気温が高い(ピンク)空気塊B を1000hPa まで下げてみると(B’)、気温は赤になるので温位が空気塊Aより高いことが分かります。
つまり温度が高いほど温位も高くなるというわけで、これはよく分かります。
3. 空気塊C
今度は気温が空気塊Aと同じ(青)で高度が高い空気塊Cを1000hPa まで下げてみると(C’)、気温は濃い赤になるので温位は空気塊Aより高いことが分かります。
6.温位と大気の安定度
6-1. 前回の復習
ここまでは空気塊の温位を中心に考えてきました。
ここからはより広く実際の大気の温位に焦点を当て、それが大気の安定性とどんな関係があるのか調べていきます。
前回の記事で大気の気温減率について考慮しました。その時に載せたグラフのイメージ図が次のものです。
これは一つの例として、地上にある空気塊を上昇させて周囲の大気の気温と比べてみたものです。
上昇した空気塊の温度と移動先の大気の気温との比較によって、大気が安定しているか不安定かを判断できるというものでした。
詳しくは前回の記事「大気の気温減率と安定度」を読んでください。
6-2. 温位の変化と大気の安定度
大気の安定度を温位で判断する場合も同じような考え方に基づいています。
ただ、物差しとして気温の代わりに温位を用いています。
また気温減率に関する記事では空気塊を主役に、周辺大気を助演にして考えましたが、今回は逆に周辺大気を主役、空気塊を助演にして考えます。
下記のグラフ(イメージ図)を見てください。説明を加えます。
● 長方形・・実際の大気
● 長方形の周囲の色・・気温
● 長方形を塗りつぶしている色・・温位
※ 暖色が強いほど気温や温位が高く寒色が強いほど気温や温位が低い。
● オレンジの直線・・乾燥断熱線
※ 異なる気温の乾燥断熱線も互いに平行に走っている。
● 点線・・状態曲線
6-3. 中立
まず、真ん中の乾燥断熱線上にある大気(A2、B2)の場合、高度による気温の違いはあっても温位は同じです。
仮に地上から空気塊が上昇しても空気塊の温度と周囲の大気の温度は同じですから、空気塊はそれ以上 上昇も下降もせず、その位置にとどまります。
このように、大気の温位が高度によって変化しない場合を中立といいます。
6-4. 安定
次に図の右側、赤い点線上にある高度の異なる大気(A1、B1)に注目してください。
こちらは大気の温位が高度とともに増加しています。
この場合、地上の空気塊を上昇させると空気塊は乾燥断熱線に沿って上昇するので温位はオレンジのままです。つまりどこまで上昇しても周辺大気(A1、B1)より温位が低い状態を保ちます。
同じ高度なら温位の低い方が気温も低いので、この空気塊は下降することになります。ですから大気は安定しているといえます。
このように、大気の温位が高度とともに増加している場合を安定といいます。
6-5. 不安定
今度は図の左側、青い点線上にある高度の異なる大気(A3、B3)に注目してください。
こちらは大気の温度が高度とともに減少しています。
この場合、地上の空気塊を上昇させると、空気塊は高度に関係なく、周辺大気より温位が高い状態を保ちます。相対的に密度の小さい空気塊はさらに上昇を続けるので、大気は不安定といえます。
このように、大気の温位が高度とともに減少している場合を不安定といいます。
6-6. 温位を横軸に取ると
さて、グラフの横軸を気温ではなく温位にするとこのグラフの形になります。
こちらの方がだいぶスッキリしますね。
ここまでは未飽和空気を前提として温位なるものを調べてきました。
では水蒸気を含む空気が飽和して水蒸気が凝結するケースでは温位はどうなるのでしょうか?次回、その点を考えます。