前回の続きとなります。今回は空気塊が飽和している場合を含めて、気温から大気の安定度を知る方法について考えます。
前回同様、この記事は「大気の気温減率と安定度」という記事をさらに丁寧に説明したものです。
1.飽和空気塊について安定
不飽和空気塊に対してのと同様、飽和空気塊に対しても状態曲線と湿潤断熱線の位置関係で大気の安定度を見ることができます。
次の図をご覧ください。
上の図では一つのパターン化した大気の状態として最初から空気が飽和していると仮定します。
大気の気温減率が湿潤断熱減率より小さい時は大気が安定しているといえます。グラフで見ると状態曲線の傾きが湿潤断熱線の傾きより小さくなっています。
このように高度が上がってもあまり気温が下がらないときの大気は安定した状態といえます。
なぜなら、飽和した空気塊は上昇していっても常に周辺大気より温度が低いので、上昇させる力を受けなくなると下降していくからです。
2.飽和空気塊について不安定
では逆のパターンはどうなるでしょうか?次の図をご覧ください。
大気の気温減率が湿潤断熱減率より大きい時は大気が不安定であるといえます。グラフで見ると状態曲線の傾きが湿潤断熱線の傾きより大きくなっています。
この場合、飽和した空気塊は常に周辺大気より温度が高く軽いので上昇し続けることができます。
空気塊は上昇させる力を失った後も上昇し続けるので、発生した雲はどんどん発達していきます。
3.絶対安定
ここまで、空気塊が飽和していない場合と飽和している場合と別々に考えてきました。ここからは不飽和空気塊・飽和空気塊・大気の状態、3つを同時に考えていきます。次の図をご確認ください。
このグラフには乾燥断熱線、湿潤断熱線、状態曲線の3つの線があります。
状態曲線は湿潤断熱線より右側にあり、つまり傾きが小さくなっています。
このグラフの意味しているのは、空気塊は飽和していようがいまいが周辺大気より温度が低いので上昇する力を受けなくなったら下降し始めるということです。
この状態を絶対安定といいます。
4.絶対不安定
絶対安定があれば絶対不安定もあります。次の図をご覧ください。
状態曲線は乾燥断熱線より左側にあり、つまり傾きが大きくなっています。
この図が意味するのは空気塊は飽和していても飽和していなくても周辺大気より温度が高いということです。
すると空気塊は上昇させる力を失ってもさらに上昇し続けることになり、大気は極めて不安定な状態といえます。
5.条件付き不安定
次はちょっと複雑な図になりますが、実際の大気はほとんど、この条件付き不安定に相当します。さっそく次の図を見てください。
図から分かるように状態曲線は乾燥断熱線と湿潤断熱線の間にあります。大気の気温減率は乾燥断熱減率より小さく、湿潤断熱減率より大きいです。
このケースでは空気塊が飽和していなければ大気は安定、空気塊が飽和しているなら大気は不安定ということになります。そういう意味で条件が付いた不安定といえます。
これまで挙げてきたパターンは状態曲線が地上から上空まで同じ傾き、つまり気温減率が同じと仮定したものでした。でも実際の大気はこんなに単純なものではありません。
乾燥断熱線と湿潤断熱線がどのように引かれるかは決まっています。エマグラムの用紙にも印刷されています。
一方、現実にそこにある大気の鉛直方向の温度分布、つまり状態曲線はどれ一つ同じものはありません。現実の大気の状態はエマグラムで表すことができます。
6.条件付き不安定と雲の発生
条件付き不安定の状態で雲が発生・発達する典型的なパターンを挙げます。下の図をご覧ください。
① グラフの右下にあるように地上の気温は30℃とします。
② 地上の大気の一部(空気塊)が何らかの理由で上昇し始めます。最初は周辺大気と同じ温度は30℃です。
③ 空気塊は飽和するまでは乾燥断熱線に沿って上昇していきます。
④ A(地上500m)では乾燥断熱線は状態曲線より左側にあり、空気塊の温度は25℃で周辺大気より温度が低い状態です。
そのため空気塊を持ち上げる力がなくなると地上に降りてきます。雲は発生しません。
⑤ B(1000m)で空気塊の温度は20℃まで下がり、この時点で飽和に達するとします。ここから空気塊は雲を作りながら湿潤断熱線に沿って上昇していきます。
まだ周辺大気よりは温度が低いので地上に引き下ろそうという力は働いています。空気塊を上昇させる力が弱いと雲はあまり発達しません。ぽっかり浮かぶ積雲が相当するでしょうか。
⑥ 空気塊がC(2000m)まで持ち上げられると空気塊と周辺大気の温度は同じ15℃になります。
この時点で空気塊を上昇させる力が途切れると空気塊はその場にとどまることになります。
⑦ 空気塊を上昇させる力が強いと、空気塊はさらにCを超えて上昇を続けます。
すると空気塊の方が周辺大気より温度が高くなるので、空気塊を上昇させる力がなくなっても浮力により空気塊は自ら上昇し続けます。
⑧ 空気塊はD(3000m)を超えてさらに上昇していきます。
雲はどんどん高く発達していき積乱雲などの対流雲が発達します。
大気の安定性で考えると、高さがCより下で安定、Cちょうどが中立、Cより上が不安定ということになります。
このプロセスのさらに詳しい説明は「エマグラム入門(2)」をご覧ください。
7.まとめ
◆ 絶対安定⇒ 気温減率が湿潤断熱減率より小さい
状態曲線が湿潤断熱線の右側にある
◆ 絶対不安定⇒ 気温減率が乾燥断熱減率より大きい
状態曲線が乾燥断熱線の左側にある
◆ 条件付き不安定⇒ 気温減率が乾燥断熱減率より小さく湿潤断熱減率より大きい
状態曲線が乾燥断熱線と湿潤断熱線の間にある
大気の状態は空気塊が飽和していなければ安定、飽和していれば不安定になる
次回は温位について調べていく予定です。