気体の状態方程式は乾燥空気を対象にしていますが、実際の大気はほとんど湿潤空気です。
今回は仮温度なるものを使って湿潤空気に気体の状態方程式を当てはめる方法を学びます。
1.湿潤空気は乾燥空気より軽い
乾燥空気と湿潤空気の違いはここにあります。この違いは空気の平均分子量の違いからきています。
イメージ図(空気の平均分子量)をご覧ください。
大気の組成について非常に大雑把にとらえると図のようになります。アルゴンなどの気体は省略し、パーセンテージも概数です。イメージとしてとらえてください。
この図から分かることは水蒸気の分子量は窒素や酸素より小さいので、水蒸気が含まれると空気全体の平均分子量が小さくなるということです。ここから次のことがいえます。
◎ 湿潤空気は乾燥空気より軽い
◎ 水蒸気量が多いほど空気は軽くなる
これらの点は気体の状態方程式とどう関係するでしょうか?
2.気体の状態方程式の復習
2-1. 気体の状態方程式
気体の状態方程式について復習します。こちらの記事も参考にしてください。⇒「気体の状態方程式と気体定数」
P[Pa]:気圧、V[m3]:体積、m[kg]:質量、R:その気体における気体定数、T[K]:温度、ρ[kg/m3]:密度、α[m3/kg]:比容 とすると気体の状態方程式は次の通りです。
PV=mRT
◆ 密度で表す場合 P=ρRT
◆ 比容で表す場合
上の式を変形して P×1/ρ=RT
比容は密度の逆数なので α=1/ρ とすれば Pα=RT
2-2. 乾燥空気の場合
乾燥空気の気体定数をRd とすると
Pα=RdT
2-3. 湿潤空気の場合
湿潤空気の気体定数をRm とすると
Pα=RmT
気体の状態方程式は乾燥空気を前提にしています。でも、湿潤空気の気体定数Rm と乾燥空気の気体定数Rd は異なっています。
また最初に考えたように湿潤空気は乾燥空気より軽いです。つまり密度が小さいです。
そこで、何らかの技を使って湿潤空気の密度(または比容)を乾燥空気に合わせる必要があります。
3.仮温度の考え方
空気は熱を加えて暖めれば軽くなります。次の図をご覧ください。
この図にあるように湿潤空気と同じ体積の仮想的な乾燥空気があるとすると、乾燥空気の方が密度が大きく重くなっています。
ここで乾燥空気に熱を加えて乾燥空気の温度を上昇させていきます。温度の上昇とともに密度は小さくなり、湿潤空気と同じ密度になった時点で加熱をストップします。この時の乾燥空気の温度が仮温度です。
密度の代わりに比容や圧力を使っても同様に求めることができます。
実際の湿潤空気と仮想的な乾燥空気とでは密度、比容、圧力が同じで温度が違うという関係になります。
4.仮温度を求める式
Tv:仮温度、w:混合比、T:湿潤空気の温度とすると
Tv=( 1+0.61w )T
Tv の値は常にT より高く水蒸気が多いほど高くなります。式でいえば水蒸気が多ければ混合比も大きくなり、仮温度が高くなります。
また、水蒸気が多ければ一層乾燥空気に比べて軽くなるので、余計に乾燥空気を暖めなければ同じ密度にはなりません。
こうしたことから仮温度を利用して空気中の水蒸気の量をはかることができます。
このように仮温度とは、空気中に水蒸気が含まれている効果とも表現できます。ちなみにTV のVはvirtual temperature(バーチャルな温度)です。
ただ、式のw は0.03を越すことはあまりないので、湿潤空気に対しても乾燥空気の状態方程式を用いることが多いようです。
5.湿潤空気の状態方程式
比容を用いた乾燥空気の状態方程式 Pα=RdT のTをTVに置き換えれば湿潤空気の状態方程式を表すことになります。
Pα=RdTV
6.まとめ
▶ 仮温度の式
Tv=( 1+0.61w )T
▶ 湿潤空気の状態方程式
Pα=RdTV
▶ 水蒸気が多いほど仮温度は高くなる
仮温度は何かの拍子に(?)ヒョイと出てくることがあるようなので、ちゃんと理解しておきたいですね。