放射に関する法則(放射4)

ここからは黒体という怪しげな物の意味と、黒体である太陽と地球の放射にかかわる法則についての基本を考えます。

0.放射に関する法則の要素

地球と太陽が関わる放射を考えるには次の4つの要素を考慮に入れる必要があります。

● 物体間の距離

● 黒体の性質

● 物体の温度

● 電磁波の強さと波長

このうち、物体間の距離が関わる法則については「放射2」で距離の逆2乗則として既に取り上げました。

これから残る3つの要素が関係する法則について調べていきます。

1.黒体とは

黒体とは、すべての波長の放射を完全に吸収する仮想の物体のことです。

全ての物体は絶対零度でない限り、その温度に応じた電磁波を放射しています。

同時に物体は当たった(入射した)電磁波を吸収する性質も持っています。といっても電磁波全てが吸収されるわけではありません。

電磁波の一部は跳ね返り(反射)、一部は通り抜け(透過)、残りが吸収されます。

実際には電磁波を100%吸収する物体はありませんが、そういう物体はあると仮定したとき、その仮想的な物体を黒体と呼びます。

さらに、黒体は与えられた温度に応じた最大の放射エネルギーを射出します。これを黒体放射といいます。

意外なことに太陽も地球もほぼ黒体とみなされます。(全然黒くないのにね)

2.キルヒホッフの法則

ここから放射に関する4つの法則を冒頭(下にもあります)のイメージ図を見ながら考えてみましょう。最初はキルヒホッフの法則です。

キルヒホッフの法則とは簡単に言えば、よく吸収する物体ほどよく放射するという法則です。数式にするとこのようになります。

aλ = ελ

aλ 吸収率  ελ: 放射率

λはラムダ、εはイプシロンといいます。

3.プランクの法則

3-1. プランクの法則とは

プランクの法則の定義を幾つかの資料から調べましたが、どれも難しくて・・定義というより特徴を私なりにまとめるとこうなりました。

物体が電磁波を放射するとき、放射強度とその波長分布は物体の温度の関数となる。

次の説明もありました。

プランクの法則は、波長と温度が決まると、黒体からの放射量が決まるという関係式です。」(「気象予報士完全攻略ガイド第2版」翔泳社)

また、放射強度とはある平面の単位面積に単位時間当たり入射する放射エネルギー量のことをいい、記号 I で表します。

3-2. グラフでみると

下のイメージ図を見てください。このグラフは横軸を波長[μm]、縦軸を単位波長あたりの放射強度としたものです。

地球のように黒体の温度が低いときのグラフの形(青い線)と、太陽のように温度が高いときのグラフの形(赤い線)は明らかに違っています。

非常にザックリいえば、温度で形(スペクトル分布)が変わるということです。

具体的にいうと次の通りです。

● 黒体の温度が上昇すると放射強度は強くなる

● 黒体の温度が上昇するほど、短い波長の電磁波を強く放射するようになる

そして、ある温度の黒体放射があった場合、黒体からの距離が大きくなれば放射強度は弱くなりますが、形(スペクトル分布)は変わらないということでもあります。

3-3. 温度と放射強度の関係

グラフの黄色く塗りつぶした部分の面積が、指定された温度での放射強度となります。

プランクの法則からステファン・ボルツマンの法則とウィーンの変位則が導き出されます。

4.ステファン・ボルツマンの法則

ステファン(シュテファン)・ボルツマンの法則とは以下の通りです。

黒体放射の全ての波長帯の放射強度の総量は、黒体の絶対温度の4乗に比例する

数式にすると以下になります。

I = σT4

I : ある黒体の単位面積が単位時間に放射するエネルギー

σ (シグマ): ステファン・ボルツマン定数

T: 黒体の絶対温度[K]

ステファン・ボルツマン定数の値は

  5.67×10-8 Wm-2K-4 です。

イメージ図で示しているのは、太陽のように絶対温度が高いと全放射強度(黄色の正方形)は大きく、地球のように絶対温度が低いと全放射強度(ピンクの正方形)は小さいということです。

記事の最後にこの法則の覚え方の変なイラストを載せました。

5.ウィーンの変位則

ウィーンの変位則とは・・

放射強度が最大となる波長は黒体の絶対温度に反比例する

というもので、式は以下になります。

${\Largeλ_m=\frac{2897}{T}}$

λm[μm]:放射強度が最大となる波長(m は max(最大)の意)

[K]:絶対温度

2897:定数

この式から、最大放射強度と物体の絶対温度のどちらかが分かれば、もう一方を求めることができるということが分かります。

◆ 最大放射強度 ⇒ 絶対温度

◆ 絶対温度 ⇒ 最大放射強度

ですから、この式を用いて太陽放射が一番強くなる波長と、地球放射が一番強くなる波長が分かります。

記事の最後にこの法則の覚え方の変なイラストを載せました。

6.まとめ

▶ 黒体・・すべての波長の放射を完全に吸収する仮想の物体

  黒体放射・・黒体は与えられた温度に応じた最大の放射エネルギーを射出する

▶ キルヒホッフの法則・・よく吸収する物体ほどよく放射する

  aλ = ελ

▶ プランクの法則・・物体が電磁波を放射するとき、放射強度とその波長分布は物体の温度の関数となる

▶ ステファン・ボルツマンの法則・・黒体放射の全ての波長帯の放射強度の総量は、黒体の絶対温度の4乗に比例する

  I = σT4

▶ ウィーンの変位則・・放射強度が最大となる波長は黒体の絶対温度に反比例する

  ${\Largeλ_m=\frac{2897}{T}}$

7.覚え方の変なイラスト

<ステファン・ボルツマンの法則>

気の弱そうな男性に女性が「強い男なら捨て身の覚悟で私を愛してよ!」と言ってるシーンです。

◆ 強い放射強度)なら捨て身ステファン)でIσTよん

◆ シロクマはシグマ(σ)に似てるので登場してもらいました。

<ウィーンの変位則>

◆ ウィーンウィーンの変位則)を襲った最大強度邪悪な2897ワル( / )台風T

◆ 飛ばされているのはウィーンで活躍したモーツァルトさんです。

太陽放射と地球放射については次回の記事で紹介します。