放射平衡と大気による波長別吸収(放射5)

太陽から一方的に放射を受け続けると地球は暑くなる一方です。でもご安心ください。地球からも同じだけ放射が出ています。

でも、どちらの放射にも大気によって吸収される波長があります。

今回は放射平衡と大気による波長別の吸収についての基本を考えます。詳しい考察は別の機会に回します。

1.放射平衡

1-1. アルベドとは

前回の記事で太陽も地球も黒体であることを学びました。黒体は温度に応じた電磁波を放射します。

太陽の温度はとても高いので放射エネルギーも莫大な量になります。でも、地球に届くのは、その一部です。イメージ図をご覧ください。

太陽放射のうち、地球に注がれる(入射)分を仮に100とします。

このうち30は地球で跳ね返されると(反射)、残りの70が地球が実質的に受け取る太陽放射となります。

ここで出てくるのがアルベドです。アルベドとは放射を受けたときの反射率のことです。

アルベドの計算式は以下の通りです。

$$\mathbf{\normalsize{アルベド=\frac{反射放射量}{入射放射量}}}$$

地球の平均アルベドは 0.3 です。

この計算式に100をかけて%で表す場合もあります。その場合、地球のアルベドは30%になります。

さらにアルベドは地球の中でも地表の状態によって変わり、さらに地球以外の惑星でも数値が変わります。

主なアルベドは以下になります。数値が大きいほどよく反射するということです。

場 所 アルベド
裸 地 0.1~0.25
砂、砂漠 0.25~0.4
森林地 0.1~0.2
新 雪 0.8~0.95
海面(高度角25°以上) 0.1以下
海面(高度角25°以下) 0.1~0.7
厚い雲 0.8前後
金星平均 0.78
火星平均 0.16

(「気象予報士かんたん合格テキスト」から)

地球、火星といった惑星規模の平均アルベドはプラネタリーアルベドともいいます。

1-2. 放射平衡

太陽放射が当たるのは地球の半分、つまり昼間である領域です。

一方地球放射は夜昼関係なく地球全体から放射されます。

そして地球が受け取る太陽放射と地球から出ていく地球放射の量は等しくなります。

これを放射平衡の状態といいます。

太陽放射によって地表の温度が高くなれば、その分 地球の放射強度も強くなるので当然ですね。

図でいうと、地球が受け止めた太陽放射が70 なので、地球放射も70になります。

1-3. 放射平衡温度

地球で放射平衡が成り立っている時の平均気温を放射平衡温度といいます。では地表面の放射平衡温度は何度になるでしょうか?

この計算はステファン・ボルツマンの法則を利用することで導き出されます。

大気の存在を無視して計算すると、255K(-18℃)となります。(今回は計算方法は省略します)

この通りだとすると寒くてたまったものではありませんが、実際には大気があるおかげで、288K(15℃)まで上昇してくれます(詳しくは別記事で)。

では、太陽放射、地球放射そして大気の関係はどうなっているのでしょうか?

2.短波放射と長波放射

2-1. 太陽放射と地球放射の波長分布

放射と大気の関係を考えるうえで、太陽放射と地球放射それぞれの波長分布(スペクトル分布)を知る必要があります。

下の波長分布のイメージ図(グラフ)をご覧ください。

太陽の表面温度は 5780K(約6000K)、地球の表面温度は 255K(約300K)です。(数値は資料によって結構まちまちです)

この温度をプランクの法則に当てはめると、上記の波長分布ができます(イメージで厳密なものではありません)。

さらに、ウィーンの変位則を用いて計算すると太陽放射と地球放射、それぞれの最も放射強度の強い波長が分かります。

2-2. 短波放射

太陽放射には紫外線、可視光線、赤外線が含まれていて、可視光線が全放射の半分近くを占めています。

また、放射強度が最大になる波長は約 0.5μm で、可視光域にあります。

さらに、可視光域は赤外域と比べると波長が短いので、太陽放射は短波放射とも呼ばれます。

2-3. 長波放射

地球放射のほとんどは赤外線で、放射強度が最大になる波長は約 11μm です。

太陽放射に対して地球放射は波長の長い赤外域なので、地球放射は長波放射、あるいは赤外放射と呼ばれます。

3.大気による放射の吸収

3-1. 気体の種類と波長の組合せ

地球上の実際の平均気温が計算上の気温より高くなる原因は大気が放射を吸収するからです。

ここでいう放射には太陽放射、地球放射の両方が含まれます。

また、大気による放射吸収の度合いは気体の種類と放射の波長の組み合わせによって変わります。

それを示したのが以下のイメージ図です。ちょっとごちゃごちゃしてますが、左上から順に説明します。波長の分布に焦点を当てているので、太陽と地球の放射強度の違いは表現していません。

3-2.  図の見方の説明

● 上部・・大気上端における波長分布

● 中央・・大気の鉛直図

 上の水色の線・・大気上端

 下の緑の線・・地表

 その間が大気(温室効果ガス)

● 下部・・地表における放射スペクトル

3-3. 大気上端における太陽放射の波長分布(左上)

紫外線、可視光線、赤外線からなっています。

3-4. 太陽放射の吸収(左中)

太陽放射のそれぞれの波長の電磁波は大気に入射してどうなるでしょうか?

◆ 紫外線(紫色の矢印)はほとんどが大気上層のオゾン層で吸収されます。紫外線はまた酸素にも吸収されます。

◆ 可視光線(黄色の矢印)はほとんど大気に吸収されずに地表まで届きます。

◆ 赤外線(ピンクの矢印)はほとんどが水蒸気や二酸化炭素に吸収されます。

3-5. 地表における太陽放射スペクトル(左下)

大気による吸収の結果、地表における太陽放射スペクトルは全体に小さく、その多くが可視光線で占められています。

3-6. 地球放射の吸収(右下から右上へ)

地球放射は赤外線なので、宇宙に放射する途中で水蒸気・二酸化炭素などによって吸収されてしまいます。

ところが波長が 8~12μm の赤外線は大気に吸収されることなく宇宙へと出て行きます。

この波長帯の赤外線は宇宙から“見える”ので「大気の窓領域」といいます。気象衛星の赤外画像もこの“窓”を利用しています。

地球から宇宙に放出される放射には、一旦大気に吸収されたものも含まれています。

図の右上の波長分布は窓領域から放出されるものだけを示しています。

 

4.温室効果ガス

大気の成分のうち太陽放射や地球放射を吸収するものを温室効果ガスといいます。

温室効果ガスには、水蒸気(H2O)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、オゾン(O3)などが含まれています。

特に水蒸気による赤外域の吸収率は高くなっています。

ところで、この記事の前半で太陽放射と地球放射がつりあっていると学びました(放射平衡)。

でも、太陽放射も地球放射も大気に吸収されてしまうとしたら、放射量が変わってつり合いが取れなくなってしまわないのでしょうか?

この答えのヒントになるのが熱収支と温室効果です。それらについては別の記事で取り上げます。