中心付近で風速が最大(角運動量保存則)(台風9)

台風の強さは中心付近の最大風速によって決められます。どうして「中心付近」なのでしょう?

温帯低気圧の場合、どんなに強い風が吹いても「中心付近で」という表現は普通使われません。実際、温帯低気圧の場合、中心より周辺部の方が風が強いことがよくあります。

台風は等圧線も中心ほど混んでいますし、風も目を除くと中心部が最も強いというのは当たり前と考えられています。

今回の記事では、台風の暴風の形成過程と中心付近で最大になる理由を取り上げます。

1.台風発達のプロセス(エネルギー)

以前、台風の発達についての一連の記事を載せました(台風の発達1~4)。それは以下の現象が順々に生じて台風(熱帯低気圧)が発生、発達するという内容でした。

クラウドクラスター(積乱雲の集合体)⇒

❶ 弱い渦運動

❷ 渦収束

❸ 上昇気流

❹ 積乱雲の発達

❺ 潜熱放出

❻ 中心の高温化

❼ 中心気圧の低下

⇒ 熱帯低気圧、台風の発生、発達

2.台風発達のプロセス(風)

今回、上記の ❶ 弱い渦運動 ~ ❸ 上昇気流 までに再び目を向け、台風の風が中心に向けて、その強さを増していくプロセスを詳しく調べます。

また、台風の発達についての以前の一連の記事では、台風の発達をエネルギーに焦点を当てながら立体的に捉えて考えました。

今回は台風の発達をに焦点を当てながら平面的(下層)に捉えて考えます。

3.カギとなるのは・・

❶~❸までは「台風の発達2」の記事で扱いました。そこでの要点は渦運動が摩擦力によって収束し、行き場を失った風が上昇気流となる、ということでした。

でも、風が収束してもいきなり強い上昇気流になるわけではありません。中心付近で壁のように発達した積乱雲の塊を作るほどの強い上昇気流が生じるには、それなりの暴風が必要なはずです。

この暴風はどのように引き起こされるのでしょうか?

カギとなるのは 摩擦力 と 角運動量保存則 です。

4.暴風発生までの流れ

この図の大まかな流れは左下の渦運動から始まって風速が大きくなり、それが渦運動にフィードバックされることです。

さらに、この循環が進むに連れ、中心付近での風速が最大になって上昇気流が生じる、そこまでの過程を示しています。

では左下の渦運動❶から番号順に説明を進めていきます。(まる1~7が正しく表示されない場合も矢印にそって見てください。)

❶ 渦運動

台風の風は反時計回りにゆっくり渦を巻いています。最初は渦運動は強くないので風も暴風というほどではありません。

この風は等圧線と平行に吹く傾度風とみなすことができます。また、別の記事で扱いますが、台風の場合は接線風という呼び方もあります。

❷ 渦収束

地表に近い下層では摩擦力が働きます。そのため風の向きは、等圧線と平行になる前に等圧線を台風の中心方向に横切る角度で平衡となります。

図の一番上にこの時点でのベクトルを示しました。

結果として風は中心方向に引き寄せられて行き、渦収束が起こります。

摩擦力と風向きの関係は「地上風」の記事も参考にしてください。

❸ 風速が大きくなる

ここで台風の一番外側にあった一つの気塊の動き(つまり風)を考えてみます。

この気塊が渦収束によって次第に中心に近い方へ移動したとします。

すると、中心に近づくに連れて動きが速くなります、つまり風が強くなります。

ここで関係するのが角運動量保存則です。角運動量保存則について至極大雑把に言えば次の通りです。

回転する物体の回転半径と回転速度をかけた数値は一定に保たれる

R× V= R× V = 一定

(R:回転半径 V:回転速度)

イメージ図をご覧ください。

◇ 台風の外側を回る気塊(風)の回転半径(中心からの距離)Rが 300km 、回転速度(風速)Vが 5m/s とします。

単位を無視して数字だけを式に当てはめると、300 × 5 = 1500 になります。

◇ その気塊が中心に吹き込み、回転半径Rが 50km までになると、回転速度Vはどう変化するでしょう。

1500 ÷ 50 = 30 で回転速度つまり風速は30m/s になることが分かります。

❹ コリオリ力と遠心力が大きくなる

風速が増すと比例してコリオリ力、遠心力ともに大きくなります。

❺ 気圧傾度力が大きくなる

コリオリ力+遠心力 が大きくなると、バランスを保つために気圧傾度力が大きくなります。

❻ 気圧が下がる

こうして中心に近づくに連れて気圧傾度力が大きくなり、それに応じて気圧が下がります。中心に近いほど等圧線が混んでいる理由はここにあるのでしょう。

❼ 気圧傾度力がさらに大きくなる

気圧が下がれば気圧傾度力はその分、大きくなります。

❶へ フィードバック

気圧傾度力がさらに大きくなれば渦運動が強化され❶からの循環によって、さらに中心に向かって風が強くなっていきます。

5.中心付近で最大風速

今、一つの気塊を考えましたが、台風周囲の無数の気塊が同様にして中心へと風の勢いを強めていくわけですから、中心付近では相当の暴風となることが分かります。

やがて、中心付近では中心に収束しようとする風が強い遠心力によって阻まれてが形成され、また行き場を失った風は上昇気流となって壁雲を作りだします。

このように台風の風は、摩擦によって収束し、そこに角運動量保存則が働き風速が増大し、中心付近で最大になるという性質があることが理解できます。

以上が暴風の形成と、中心付近で最大になる理由です。また、渦運動から上昇気流までのプロセスでもあります。