熱輸送が傾圧不安定波の主な役目ですが、中緯度全体でどのように熱が運ばれるか3種類のエネルギーから考えます。
ここしばらく傾圧不安定波をエネルギーの観点から調べてきましたが、そこで取り上げたのは「力学的エネルギー」です。
今回は熱輸送に直接かかわる熱エネルギーと光エネルギーを含めて簡単に考えます。
そのことを示したのが上記の図です。
大まかな流れは
1 光エネルギー
⇒2 熱エネルギー
⇒3 力学的エネルギー
⇒4 熱エネルギー
です。では順に説明します。
1.光エネルギー
地球の熱の源はもちろん太陽からの光エネルギーです。ですが、単位面積当たりで受ける光エネルギーの量は緯度によって違ってきます。地球に入って来る太陽エネルギーを太陽放射、地球から出て行くエネルギーを地球放射とすると、中緯度地帯においても下の不等式が成り立ちます。
より高緯度 太陽放射<地球放射
より低緯度 太陽放射>地球放射
この違いが次の熱エネルギーの量に係わってきます。
2.熱エネルギー
このような理屈で低緯度の方が太陽からの光エネルギーを多く受けるため、大気はより多くの熱エネルギーを蓄えることになります。
低緯度の熱エネルギーを高緯度に運べば緯度による気温の差は小さくなり気候が極端にならずに済みます。
でも中緯度の熱輸送は単純ではなく傾圧不安定波と温帯低気圧の助けが必要となります。
そのため熱エネルギーはいったん任務を力学的エネルギーに委ねます。
3.力学的エネルギー
少し前の記事で何回かに分けて偏西風波動(傾圧不安定波)をエネルギーの観点から調べましたが、そこでのエネルギーはこの力学的エネルギーのことでした。
そこで言及した位置エネルギー、運動エネルギーいずれも力学的エネルギーの一種です。
一連の記事で詳しく取り上げたので、ここでは簡単な復習だけします(北半球の場合)。
● 偏西風によって南北の寒気・暖気が分けられている
● 南側の大気がより多くの熱エネルギーを持ち南北の気温差が大きくなっていく
● 北側の寒気の持つ位置エネルギーが相対的に大きくなっていく
● あるところまで気温差が大きくなると運動力学的に不安定になり、偏西風が蛇行し傾圧不安定波が生じる(この辺の仕組みは近いうちに記事にするつもりです)
● 有効位置エネルギーが運動エネルギーに変換され、温帯低気圧を通して寒気と暖気の入れ替えが生じる
4.再び熱エネルギー
上記の力学的エネルギーを介して北側に暖気が流れ込み南北の気温差が小さくなるため、結果として南側の熱エネルギーの一部が北側に運ばれたことになります。
5.熱輸送
2~4の流れで低緯度側の熱が高緯度側に運ばれて熱輸送が完了します。
6.地域から全体へ
一つの傾圧不安定波は波長数千キロ程の波ですし、長くて数週間で役割を終えるので、中緯度全体で熱輸送が行われるにはいろいろな地域で幾つもの傾圧不安定波が必要となります。
図の「地域A~C」というのはそのことを示しています。
次回以降は「風」に重点を置いて傾圧不安定波の仕組みについて考えて行く予定です。