偏西風という言葉はお天気の解説でよく使われます。
「台風が偏西風に流されてスピードを上げる」とか「偏西風の蛇行により大きく寒気が流れ込む」といったように。
でも、偏西風が吹いているところ、つまり偏西風帯がどこかという点は資料によって微妙に違ったりしています。今回、その範囲を調べてまとめてみました。
目次
1.低緯度・中緯度・高緯度ってどこ?
偏西風を学ぶ時にしばしば出てくるのが中緯度という用語です。
中緯度とは何度から何度までを指すのでしょうか?これも資料によってまちまちです。
結論から言えば厳密な定義はないようです。
身長に例えると中くらいの身長というのが何センチから何センチまでという定義がないのと同じです。
でも、緯度30°から60°までとされている説明が多いように思えます。20°から60°というのもあります。
赤道付近と極付近を除いたところという説明もあります。ですから、あまり神経質になる必要はないのでしょう。
中緯度より赤道側が低緯度、極側が高緯度です。
2.偏西風帯の範囲が資料によって異なるのはなぜ?
偏西風の吹く範囲を偏西風帯とすると、資料によって偏西風帯の説明が微妙に違っているので学習する方は混乱するかもしれません。大まかにいえば、次の観点の違いから説明が異なってくるように思えます。
▶ 高度による違い
▶ 西風が吹いている範囲を広く偏西風帯とみなすか、西風の特に強い範囲を偏西風帯とみなすか
一つ付け加えると、成層圏にみられる西風も偏西風に含むとする資料もありますが、ここでは対流圏に限定して考察します。
3.偏西風の定義と偏西風域(気象庁の用語の説明)
先に気象庁のサイトにある用語の説明を引用します。
偏西風とは・・「極を中心にして西から東に向かって吹く地球規模の帯状風。」
偏西風が吹く範囲・・「平均的には、赤道付近と極地方の下層部を除く対流圏は偏西風域である。」
偏西風域を偏西風帯と同じような意味にとれば、気象庁の説明が最も範囲を広くとっているように思えます。つまり、風の強さにかかわりなく風向が西かどうかで分類しているようです。
加えて、下層部も赤道付近と極地方を除いて偏西風帯とみなしています。
ただ、「平均的には」とあるように、季節などその時々で範囲が変わることも示唆しています。
4.下層の偏西風帯
初めに下層・中層・上層がどこからどこまでの高さをいうのかについてですが、明確な基準はないようです。偏西風については高度2~3km付近までが下層と考えていいのではないかと思います。
言葉だけだとイメージが掴みにくいかもしれないので、下の模式図を参照してください。緯度・高度を軸に偏西風帯の範囲を示した図です。

図の右側のピンクの部分はハドレー循環の範囲です。
ハドレー循環では中緯度で下降気流が生じ、亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)が生まれます。亜熱帯高圧帯にできる高気圧が亜熱帯高気圧で、太平洋高気圧もそれに含まれます。
亜熱帯高圧帯の下降気流は地上に達すると南北方向に分かれ、高緯度に向かう風は、コリオリ力によって北半球では右(南半球では左)に曲げられ、西風となります。
このようにして、中緯度の下層では大規模な西風が吹き、これを偏西風といいます。
偏西風が吹く中緯度の下層を偏西風帯または中緯度偏西風帯と呼びます。
模式図では北緯30°から60°までを下層の偏西風帯としていますが、季節などにより偏西風が吹く範囲は変化しますので、一つの例として考えてください。
考え方としては、ハドレー循環と極循環による北東風(南半球では南東風)が吹いている下層以外が偏西風帯だということです。
また、地表付近では気圧配置によって東寄りの風も吹くので、いつもどこでも西寄りの風ということはありません。
さらに、偏西風を地上ではなく上空で吹く風としている資料もあります。
5.中層・上層の偏西風帯
5-1. 広くとらえた場合
偏西風は地上より上空の方が顕著であり、偏西風というと普通は上空の偏西風を指します。
模式図にあるように、下層では中緯度が偏西風帯となっているのに対し、上空(中層~上層)では亜熱帯地域から中緯度・高緯度にまで広がっています。
亜熱帯地域は緯度20~30°ですが、中緯度を20~60°とすれば、中層・上層の偏西風帯は中緯度・高緯度にあたるとみなすことができます。(既に述べたように中緯度の厳密な定義はありません)
また、「一般気象学(第2版補訂版)」(178ページ)には「低緯度から高緯度までの広い範囲に偏西風が吹いている」という記述があります。
5-2. 狭くとらえた場合
偏西風帯を下層と同じように中緯度に限定している考え方もあります。
これは偏西風帯の中でも平均して偏西風が特に強く吹いているのが中緯度だからかもしれません。
6.偏西風帯・偏西風・ジェット気流
偏西風帯という用語は概ね西風が吹いている広い範囲を示すのに使われます。
一方、一般に偏西風はその時点で周囲に比べ強く吹いている西風を指して用いられています。
ですから、偏西風の範囲は偏西風帯の範囲より狭くなります。
さらに狭い範囲でとりわけ強く吹いている風の流れをジェット気流と呼びます。
気象庁の用語によると、ジェット気流とは『対流圏上部または圏界面付近の狭い領域に集中して吹いている帯状の非常に強い風。』を指します。
簡単にいえば、ジェット気流とは、偏西風の最も風速が大きい流れのことです。
偏西風帯にあるジェット気流の主なものは亜熱帯ジェット気流と寒帯前線ジェット気流です。
これまで説明した偏西風帯の範囲とジェット気流の位置について下の模式図も参考にしてください。

この図は「一般気象学(第2版補訂版)」の「図7.10東西風の南北鉛直分布(『気象科学事典』)(177ページ)を参考にして作成したものです(随分簡略化しています)。いつでもこの図のような分布になるということではなく、一つの例として考えてください。
下層の偏西風帯(緑の矢印)に比べ、中層の偏西風帯(青い矢印)は範囲が広く風速も大きくなっています。
対流圏界面付近に風速の中心があり、ここが亜熱帯ジェット気流(Js)となっています。夏の方が亜熱帯ジェット気流の位置が高緯度側にずれていますが、この点については別記事で取り上げます。
また、偏西風に関連する偏西風波動、偏西風の蛇行、プラネタリー波、傾圧不安定波についても別の記事で詳しく取り上げます。
傾圧不安定波については「傾圧不安定波1」~「傾圧不安定波18」で詳しく解説しています。
