今回はエマグラムを使って大気の安定性を判断したり、雲の底とてっぺんの高度を知ったり、そんなことを学びます。
前回の記事でエマグラム用紙に印刷されている3種類の目盛りと5種類の線の意味、さらに空気塊の上昇について考えました。
この記事ではさらに発展して状態曲線と露点温度の線、状態曲線と空気塊の上昇から分かることを考察します。
1.状態曲線と露点温度の線
まずはエマグラム上で実際に観測された気温の線(状態曲線)と実際に観測された露点温度の線がどのように引かれるか簡略化した下のグラフを見てください。
● 黒い太線は大気の実際に観測された気温の分布、つまり状態曲線です。
● 赤紫色の太線は実際に観測された露点温度の分布を示す線です。
● 湿数というのは気温から露点温度を引いた数値で、この数値(=差)が大きいほど空気は乾燥しています。
湿数が大きい場合、空気を相当冷やさないと飽和に達しません。ということは空気に含まれている水蒸気が少ない、つまり乾燥しているということです。
逆に湿数が小さい場合、ちょっと冷やしただけで飽和するので空気が湿っていることになります。室内の湿度が高いとすぐに窓に結露ができるのと同様です。
● 2つの線が重なっているなら空気は飽和状態にあります。
2.状態曲線と空気塊の関係
2-1. イメージグラフの説明
前回の記事で空気塊の上昇について取り上げました。
上昇する空気塊の温度変化を示す線と状態曲線を重ね合わせると下記のグラフのイメージ図のようになります。
◆ 丸印・・空気塊
◆ 四角の枠・・周辺大気
◆ 丸印と四角の枠の色・・温度(寒色に変わるに連れて下がる)
◆ 黒の実線・・周辺大気の気温の変化(状態曲線)
◆ オレンジの線・・乾燥断熱線
◆ 青の点線・・湿潤断熱線
このイメージグラフは、あくまでも一つのモデルケースとして描いてあります。では順に説明します。
2-2. 地上
上昇前の空気塊と周辺大気の気温は同じ(赤)です。
2-3. 地上から持ち上げ凝結高度まで
空気塊が上昇していくとき飽和するまでは乾燥断熱線に沿って温度が低下します。
やがて空気塊は飽和します。ここから空気塊の水蒸気の凝結が始まり雲が発生します。
それで、このときの高度を持ち上げ凝結高度(LCL)また雲底高度といいます。
地上の空気が湿っている(=空気塊の水蒸気が多い)と空気塊は早く飽和になり、その分雲底高度は低くなります。
状態曲線は空気塊の線より右側にあるので、空気塊より周辺大気の気温が高いことが分かります。
2-4. 持ち上げ凝結高度から自由対流高度まで
飽和してからは雲を作りながら湿潤断熱線に沿って上昇します。
2-5. 自由対流高度(LFC)
湿潤断熱線の傾きは小さいので、やがて状態曲線と交差します。交差したところでは空気塊と周辺大気は再び同じ温度(水色)になります。
この交差する高度を自由対流高度(LFC)といいます。
この高度までは空気塊の方が周辺大気より温度が低く重いので、何も力が働かなければ空気塊はまた降りて来てしまいます。
自由対流高度を超えるには引き続き何らかの力で空気塊を持ち上げ続けなければなりません。
前々回の記事で取り上げましたが、空気塊を上昇させる力の原因としては、下層収束、地形、対流、前線などがあります。
2-6. 自由対流高度から中立高度まで
自由対流高度を過ぎると、今度は空気塊の方が周辺大気より温度が高く軽くなります。
そうなると空気塊は下から持ち上げられなくても浮力によって自力でどんどん上昇していけるようになります。
図の右側でロケットが飛んでいますね。自由対流高度までは燃料を噴射し続けなければいけませんが、自由対流高度を越えたら噴射を止めても飛び続けるようなイメージです(実際には落ちます)。
2-7. 雲の発達
このことは雲の発達と関係しています。
既に学んだように湿潤空気は持ち上げ凝結高度から雲を作り始めます。
上昇気流が弱ければ空気塊は自由対流高度到達前に上昇が止まってしまうため、雲の発達はそこで終わり、背の高い雲にまで成長することができません。
一方、上昇気流が強く空気塊を自由対流高度を越えるまで持ち上げられるようなときは、雲はさらに背の高い雲にまで発達します。
2-8. 中立高度(LNB)
イメージグラフを見ると分かるように、さらに高度が上がると、ある高度で再び状態曲線と湿潤断熱線が交差します。
この高度を中立高度(LNB)、または中立浮力高度、平衡高度などと呼びます。
これより上空では再び空気塊の方が周辺大気より温度が低く重くなるので、上昇はそこでストップします。
それで中立高度は雲のてっぺん、雲頂高度でもあります。
3.対流有効位置エネルギーと対流抑制
エマグラムを使うと大気の安定度を知ることもできます。次のイメージグラフをご覧ください。
さきほどの図と同じですが、上昇する空気塊の温度分布の線と状態曲線との間の領域に色をつけました。
3-1. 対流抑制(CIN)
地上から自由対流高度までの薄い緑色の面積を対流抑制(CIN)といいます。
この範囲では上昇する空気塊の温度が周辺大気の気温と比べて低ければ低いほど空気塊の上昇する力は小さくなります。言い換えれば対流が抑制されます。
ということはCINの面積が大きいほど空気塊を引きずり降ろそうとするエネルギー、つまり対流を抑制するエネルギーが大きいということになります。
3-2. 対流有効位置エネルギー(CAPE)
自由対流高度から中立高度までの黄色い面積を対流有効位置エネルギー(CAPE)といいます。
この範囲では上昇する空気塊の温度が周辺大気の気温と比べて高ければ高いほど空気塊の上昇する力は大きくなります。
ですからCAPEの面積が大きいほど対流を引き起こそうとするエネルギーが大きいということになります。
また、対流抑制より対流有効位置エネルギーの方が大きい状態を潜在不安定といいます。
4.逆転層
対流圏では上空ほど気温が低いのが普通ですが、逆に上層に向かって気温が高くなる層があります。これを逆転層といいます。
逆転層では気温減率が湿潤断熱減率より大きく絶対安定層となります。
ですから逆転層の上下の対流活動をこの層で抑制する働きがあります。
逆転層は生じる仕組みから幾つかの種類に分けられます。
4-1. 接地逆転層
よく耳にする放射冷却によって生じます。
よく晴れた風の弱い日の夜は地表面からの赤外放射によって地表付近の熱が失われます。こうして地表面に近い低層ほど気温が低下することで地上200~300m 程度の幅の逆転層が生じます。
また、冷たい海面に暖かい空気が接して冷やされることで生じることもあります。
4-2. 沈降逆転層
下降流によって空気が沈降して断熱圧縮が生じ温度が上がることで発生します。
沈降逆転層はある程度の高度を持ち、逆転層のすぐ上層の空気はとても乾燥しています。また、雲の高度を抑制する働きがあります。
このタイプの逆転層は背の高い優勢な高気圧内で見られます。
4-3. 前線性逆転層(移流逆転層)
上空に明瞭な前線面があるときに、その移流層内で生じます。
図にあるように、前線面では下層に寒気、上層に暖気があるのでこうした逆転層が生じます。
ここまでで、エマグラムのキホンが分かりました。具体的なエマグラムの活用方法はいずれ取り掛かるつもりです・・(いつかな?)