「理想気体の状態方程式」とただの「気体の状態方程式」はどこが違うのでしょう?
今回はその違いを簡単にまとめた後、それぞれの状態方程式について詳しく考えていきます。理想気体の状態方程式は熱力学の基礎なので、ここでつまづかないようにしたいですね。(高校で習うみたいですが私はまったく覚えてなかったです 😐 )
目次
1.これから学ぶこと
過去の2つの記事「気体分子と圧力の関係」、「気体分子と体積の関係」で、下記6項目のうち4項目を取り上げました。今回は6,7番目の内容を中心に話を進めます。
■ 熱力学にかかわる基本的な用語の確認
■ 圧力を主体にした時の温度、体積、分子数の関係
■ 体積を主体にした時の温度、圧力の関係(ボイル・シャルルの法則)
■ 体積と分子数の関係(アボガドロの法則)
■ 理想気体の状態方程式(←今回の記事)
■ 気体の状態方程式(←今回の記事)
2.理想気体とは・・
ボイル・シャルルの法則が厳密に成り立つ気体のことです。
ボイル・シャルルの法則は、現実には分子自身の大きさや分子間力の影響によって厳密には成り立ちません。そこで、ボイル・シャルルの法則と気体の状態方程式の関係にピッタリ当てはまると仮定した気体を理想気体と呼んで、数値計算や理論の展開を行います。
3.標準状態とは・・
0℃で1気圧の状態にある気体の状態のことです。
4.理想気体の状態方程式と気体の状態方程式の比較
4-1. 理想気体の状態方程式
PV=nR*T
R*[JK-1kmol-1] : 普遍気体定数(気体の種類に無関係)
n[kmol] : 気体の量 (キロモル)
4-2. 気体の状態方程式
PV=mRT
R[JK-1kg-1] : 気体定数(気体の種類による)
m[kg] : 気体の質量(キログラム)
5.普遍気体定数
では、まず理想気体の状態方程式から考えます。
5-1. キロモル
気象学では、気体の状態方程式における気体の量mは国際単位系の kmol(キロモル)を利用します。
1kmol=1000mol で、分子数は6.02×1026 個となります。
5-2. 普遍気体定数
ボイル・シャルルの法則 PV/T=K から標準状態における 1kmol の気体定数を求めてみます。
PV/T=K に下記の値を代入します。
P:1013.3hPa=1.0133×105Pa (1hPa=100Pa)
V:22400m3=2.24×101m3
T=273K (0℃=273K)
すると、Kの値は
1.0133×105Pa ×2.24×101m3/273K
≒8314.3JK-1kmol-1
となります。
この気体定数 8314.3JK-1kmol-1 は1kmol気体の種類によらず一定です。
これを普遍気体定数R*[JK-1kmol-1] といい、キロモル比熱ともいわれます。
5-3. 単位換算
この定数に J(ジュール)という単位が突然 出て来たように見えますね。
1ジュールとは1 ニュートンの力がその力の方向に物体を 1メートル動かすときの仕事と定義されています。
この場合、ジュールという単位は下記の通り、単位の換算によって出て来たものです。(「気象学における物理量と単位(2)」を参照してください)
PVつまりP×Vを単位を使って表します。
● P ⇒ Pa
Pa=N・m-2=kg・m・s-2・m-2=kg・m-1・s-2
(N=kg・m・s-2)
● V ⇒ m3
● PV=P×V ⇒ Pa×m3
Pa×m3=N・m-2×m3=N・m=J
(J=N・m=kg・m2・s-2)
6.理想気体の状態方程式
ボイル・シャルルの法則 PV/T=K を変形すると
PV=KT となります。
また、アボガドロの法則は同温、同圧の下で、全ての気体は同じ体積中に同じ数の分子が含まれる、というものでした。
すると、気体が n[mol] のとき上記の式は
PV=nKT となります。ここで、Kを普遍気体定数R*に置き換えます。すると
PV=nR*T となり、この式を理想気体の状態方程式といいます。
この式を変形すると
V=nR*T/P となり、同温、同圧のもとでは、気体の体積は気体の種類によらずモル数n(気体の分子数)に依存することが分かります。
PV=nR*T を別の形に変形すると
n=PV/R*T となり、同温、同圧、同体積のもとでは、すべての気体で同分子数となることが分かります。
7.気体の状態方程式
今度は気体の種類によって気体定数が変わる場合を考えます。
7-1. 質量で表す場合
理想気体の状態方程式 PV=nR*T では 気体の種類に関係なく使える n[mol] を用いています。
「理想」を取った気体の状態方程式という場合、気体ごとで異なる質量 m[kg] を用いて考えます。
気体の圧力をP[Pa]、体積をV[m3]、質量をm[kg]、温度をT[K]、その気体における気体定数をRとします。(注:m は長さの単位つまりメートル、m は質量の記号です。)
すると、次の式が成り立ちます。
PV=mRT
これを気体の状態方程式といいます。
7-2. 密度で表す場合
密度と次に出てくる比容の記号と単位については「気象学における物理量と単位(1)」を参照してください。
密度は単位体積当たりの質量です。記号は ρ(ロー)、単位は kg・m-3 です。
ですから密度 ρはm/V=m・V-1で表せます。
先ほどの気体の状態方程式 PV=mRT を変形すると
P=m/V×RT となり、m/V をρで置き換えると
P=ρRT となります。
この式から圧力Pは空気密度ρと絶対温度Tに比例することが分かります。
7-3. 比容で表す場合
比容は記号は α(アルファ)、単位は m3・kg-1 です。
比容は、単位が密度の逆数なので α=1/ρ、さらに変形すると ρ=1/αとなります。これをP=ρRT に代入すると、
P=1/α×RT → Pα=RT →
α=RT/P となります。
この式から比容αは絶対温度Tに比例し、圧力Pに反比例することが分かります。
8.気体定数と気体の分子量
ここで1キロモルの気体を考えます。
8-1. 理想気体の状態方程式によると
PV=nR*t → この場合、1kmol なので、n=1 となり
PV=R*T (1) となります。
8-2. 気体の状態方程式によると
PV=mRT → この場合、1kmol なので質量m[kg] はその気体の分子量M[kg×kmol-1] の数値に等しくなり
PV=MRT (2) となります。
8-3. (1)と(2) を結びつけると
PV=R*T=MRT となります。
この式から、ある気体に固有な気体定数R と普遍気体定数R*との関係は次のようになることが分かります。
R*=MR ⇒
R=R*/M
ですから、気体の分子量が分かれば気体定数R を求めることができます。
また、気体定数R の値はその気体分子量に反比例することが分かります。
9.乾燥空気の気体定数
気象学では水蒸気を除いた乾燥空気(窒素、酸素、アルゴンなどの混合気体)の気体定数を多用します。
ここからは乾燥空気の平均分子量を28.96 として計算します。
● 1mol の乾燥空気 ⇒ 28.96g
● 1kmol の乾燥空気 ⇒ 28.96kg
● 乾燥空気の気体定数 Rd を計算すると
Rd = R*/M = 8314.3JK-1kmol-1 / 28.96kgkmol-1
≒ 287JK-1/kg = 287JK-1kg-1
となります。
つまり、乾燥空気の気体定数は 287JK-1kg-1 です。
これは、乾燥空気1kg を1K上昇させるために、287Jの熱量が必要ということを表します。
10.水蒸気の気体定数
水蒸気(H2O) の分子量を18として水蒸気の気体定数Rw を計算すると、
Rw=R*/M=8314.3JK-1kmol-1 / 18kgkmol-1
≒ 462JK-1kg-1 となります。
これは、水蒸気1kg を1K上昇させるために、462Jの熱量が必要ということを表します。
11.乾燥空気と水蒸気の比較
気体定数で比べると
287JK-1kg-1(乾燥空気)< 462JK-1kg-1(水蒸気)となります。
気体定数は単位質量1kg の気体を1K上昇させるのに必要な熱量を示しているので、水蒸気の方が熱容量(比熱)が大きいことが分かります。
◇ 熱容量とは・・ ある物質の温度を1K上昇させるのに必要な熱量
◇ 比熱とは・・ 1g の物質の温度を1K上昇させるのに必要な熱量
水蒸気の方が熱容量が大きいことから、乾燥空気より暖まりにくく冷めにくいと理解できます。
実際の気象現象でも、乾燥空気より水蒸気を含む湿潤空気の方が暖まりにくく冷めにくいことが分かります。
次は熱力学の第一法則に入ります。以前に取り上げた分野ですが、これからもっと詳しく掘り下げていくつもりです。お付き合いのほど、よろしくお願いします 😉