線状降水帯は下層風と中層風の組み合わせによって3つのタイプに分けられます。
中でも「バックビルディング型」と「バックアンドサイドビルディング型」の線状降水帯はしばしば集中豪雨をもたらし大きな被害をもたらします。今回はその仕組みを考えていきます。
1.線状降水帯とは
まずは線状降水帯が何なのかを確認しておきます。
気象庁の用語集では線状降水帯を次のように説明しています。
「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域。」
また備考として
「線状降水帯の多くは暖候期に発生し、大きな災害の要因となる集中豪雨を引き起こすことがある。」とも説明されています。
2.冒頭の図の説明
線状降水帯の発生には複雑な要素が関わってくると思いますが、この記事では単純化して3タイプの線状降水帯を比較しながら考慮します。
まずは冒頭の図の説明から始めます。衛星画像のように上空から見下ろしていると考えてください。便宜上、図の上方を北とします。3タイプに共通する特徴は以下の通りです。
● この場合、南に暖かく湿った空気(ピンク)があるとします。
● そこからの暖かく湿った下層風(赤い矢印)が前線や山にぶつかって上昇し積乱雲が発生します。
● 上空では中層風(青い矢印)が吹いています。
● 中層風は下層風より3km程度上層で吹いています。
● 積乱雲内で発生した冷たい下降気流がガストフロントとなり、暖かく湿った下層風とぶつかって(収束)さらに積乱雲を作ります。
● それぞれの積乱雲の かなとこ雲が重なって上空から見ると一つの大きな雲の塊となります。この塊はクラウドクラスターとも呼ばれます。図では濃いグレーで示しています。
● 中層風には積乱雲を移動させる役割があります。
● 下層風は積乱雲を発生・発達させる力となります。
3.バックビルディング型線状降水帯
3-1. 冒頭のイメージ図の説明(図の左側)
● 下層風と中層風の向きが同じになっています。
● その向きと同じ方向に降水帯が伸びています。
3-2. 形成の仕組み
この仕組みを時系列で追ってみたのが次のイメージ図です。ここでも図の上方を北とします。
◆ 1:00 暖かく湿った下層風によって積乱雲(これ以降セルと呼びます)が発生します。このセルを赤丸で示しました。
◆ 2:00 赤のセルは発達しながら中層風に流されて北に移動します。
◆ この時、赤のセルからのガストフロントと南からの下層風が収束します。
◆ その結果、赤のセルが発生した場所で新たに青のセルが発生します。
◆ 3:00 赤のセルは北に流されながら、さらに発達して最盛期を迎えます。同様に青のセルは成長期を迎え、ガストフロントにより新たに黄色のセルが発生します。
◆ 4:00 赤のセルはさらに北に移動しながら次第に衰退し、やがて消滅します。青のセルは最盛期、黄色のセルは成長期、そして新たに緑のセルが発生します。
◆ これ以降、同じ仕組みで個々のセルは中層風によって移動しつつ一生を送ります。
◆ 個々のセルは移動しても、一定地点、つまり最初に赤のセルが発生した地点で次々と新しいセルができるので、全体として一つの線状の降水帯が同じ場所にとどまり続けることになります。
◆ この線状の降水帯の下では長時間激しい雨が断続的に降って集中豪雨となり大きな被害をもたらします。
3-3. バックビルディング型線状降水帯については、「バックビルディング型集中豪雨(平成30年7月豪雨)」という記事でも取り上げたので参考にしてください。
この時は地形が関係するケースでした。その記事でのイメージ図を再掲載します。
4.スコールライン型線状降水帯
4-1. 冒頭のイメージ図の説明(図の右側)
● 下層風と中層風の向きが逆になっています。
● 降水帯は下層風や中層風に対して直角方向に伸びていて、中層風の風下に移動していきます。
4-2. 形成の仕組み
スコールラインが形成されるまでを次の図で説明します。図ではスペース上の限界がありますが、実際には横に(この設定では東西に)長く伸びています。
◆ 1:00 南からの暖かく湿った下層風によって赤いセルが発生します。
◆ 2:00 赤のセルは中層風に流されて南に移動しながら発達していきます。
◆ さらに その南側では下層風とガストフロントとの収束によって新たなセル(青)が発生します。
◆ 3:00 赤のセルは最盛期、青のセルは成長期を迎え、南に新たに黄色のセルが発生します。
◆ 4:00 赤のセルは衰退期、青が最盛期、黄色が成長期、そして緑のセルが発生します。
◆ これらのセルは別々に存在するというよりは全体で一つの横に伸びた雲を形成します。
◆ この雲の塊は全体として中層風に流されて細長い雲の列に対して直角方向(この場合、南)に移動していきます。
◆ スコールライン型では降水帯が移動していくので、バックビルディング型の場合のように同じ場所で長く雨が降り続くことはなく集中豪雨とはなりません。
5.バックアンドサイドビルディング型
5-1. 冒頭のイメージ図の説明(図の真ん中)
● 下層風と中層風の向きは直交方向になっています。
● 降水帯は三角形を半分に割ったような形になっています。
5-2. 形成の仕組み
◆ 1:00 下層風により赤いセルが発生します。
◆ 2:00 赤のセルは中層風に流されて東よりに移動しながら発達していきます。
◆ 赤いセルが移動すると赤いセルが発生した場所で新たに青いセルが発生します。
◆ 下層風は南側から広い範囲で吹いて来るので、赤いセルの南でも新たに黄色のセルが発生します。
◆ そのため、赤いセルは真っすぐ東ではなく北東方向に移動していきます。
◆ 3:00 同様の仕組みでクラウドクラスターの南側で新たなセルが生まれ、この状態が継続すると集中豪雨をもたらします。
6.まとめ
メソ対流系の一種である線状降水帯には3つのタイプがある。
それぞれの形成には下層風と中層風の関係が関わってくる。
バックビルディング型 | バックアンドサイドビルディング型 | スコールライン型 | |
下層風と中層風の関係 | 同 方 向 | 直 交 方 向 | 逆 方 向 |
中層風には積乱雲を移動させる役割がある。
下層風は積乱雲を発生・発達させる力となる。
バックビルディング型とバックアンドサイドビルディング型の線状降水帯はしばしば集中豪雨をもたらす。
メソ対流系には他にも局地前線があります。いずれ取り上げるつもりです。いつかな?