巨大雷雨の構造(雷雨8)

巨大雷雨の特徴は、その複雑な空気の流れと構造にあります。そこで、2つのタイプの巨大雷雨、マルチセル型雷雨スーパーセル型雷雨を比較しながら、どのような空気の流れ(風)が巨大雷雨を作り出すのか理解していきます。

1.イメージ図の説明

まずは、上の手書きのイメージ図の説明をしていきます。右側のスーパーセルの図は「一般気象学 小倉義光著 東京大学出版会」掲載の図を参考にしています。

● 筒のようなものはセル(積乱雲)です。マルチセルは幾つものセルの集合ですが、絵が複雑になるので成熟期のセルだけ描きました。

● 次の3つの矢印は空気の流れ、つまり風です。

  1 上層(緑)・・ スーパーセルの方にだけ描いています。

  2 中層(青)・・ 乾燥しています。セルの内部に侵入すると下降気流となります。

  3 下層(赤)・・ 暖かく湿っています。ガストフロントの上をはい上がりながらセルに侵入します。

● オレンジの矢印はスーパーセル全体が回転していることを表現しています。

2.マルチセル型雷雨の風の流れ

復習になりますが、孤立した単一のセルとマルチセル型雷雨を作るセルとの違いは鉛直シアが大きいかどうかにあります。

マルチセル型雷雨には幾つかのタイプがありますが、一つの例として上記の図で説明します。この場合、下層の風と中層の風の向きは90℃ずれています。

2-1 下層の空気

下層からの空気の流れ(赤)は、ガストフロントの上をはい上がりながらセルに入り込みます。

それが中層あたりまで上昇すると、さらに上昇して高層に達する流れと下降して地上へと向かう流れ(紫)に分かれます。

2-2 中層の空気

中層からセルに入り込む空気の流れ(青)は、それより上から落ちてきた降水粒子の蒸発によって冷やされ下降気流となります。

そして上記の紫の下降気流と一緒になって地上に向かいます。地上に達した冷気は周囲に広がりガストフロントを作って新たなセルを誕生させます。この時、地上では激しい雷雨となります。

こうした鉛直シアが大きい状態が続くとマルチセル型雷雨は長時間激しい雷雨をもたらす巨大雷雨となります。

3.スーパーセル型雷雨の風の流れ

こちらはもう少し奇妙です。

 3-1 下層

下層からの空気の流れ(下層風)はセルに入ると激しく上昇しますが、マルチセル型雷雨と違って全てが上昇して上層に達してセルを抜けて行きます。

 3-2 中層

マルチセル型雷雨と同様に中層風はセルに入りますが、内部での流れが違ってきます。

中層風は下層からの上昇気流の周りをぐるっと反時計回りに回転します。これは後述するセル内の回転運動のためです。

そしてマルチセル型雷雨と同様の理由で冷やされ下降気流となり、激しい雷雨をもたらし、ガストフロントを維持します。

3-3 上層

上層の風はセルを避けるようにセルの右側を抜けて行きます。

4.スーパーセル型雷雨の特色1

このように下層からの空気と中層からの空気はお互い干渉し合うことなくセル内部を流れ続けます。

孤立したセルやマルチセル型雷雨の場合は、はじめ上昇気流があったのと同じ場所で、下層に下降気流が発達し、上昇気流の根元が断ち切られてしまいます。このため一つ一つのセルの寿命は短いものとなります。

一方、スーパーセル型雷雨の場合、上昇気流をもたらす下層からの風と下降気流をもたらす中層からの風が全く干渉しあうことなく継続するので、激しい雷雨が長時間続きます。

4.スーパーセル型雷雨の特色2

スーパーセル型雷雨ではよく強力な竜巻が発生します。竜巻といえばアメリカのトルネードが有名です。多くのトルネードはこのスーパーセル型雷雨のもとで生じます。

とても興味深いのはスーパーセル自体も回転しているという点です。

スーパーセル型雷雨と竜巻との関連については別の記事で取り上げる予定です。