マルチセル型雷雨の作り方(雷雨6)

前回の記事でマルチセル型雷雨が何なのか紹介しましたが、文章だけでは掴みづらいかなと思います。それで今回は、一つのセル(積乱雲)の誕生からマルチセル型雷雨の完成までを、2つの視点の図で解説します。

その成立ちを理屈として扱ってますので、現実にはこんなに単純に出来上がるものではないでしょう。でも、とにかく理解できるよう頑張ってまとめましたので、付き合ってくださると嬉しいです 🙂 

2種類の図の一つは上空から見下ろした様子を表したもので、セルの水平方向の広がりを表現しています。

もう一つは横から見た断面図で、セルの鉛直方向への発達を表現しています(この場合は西から東方向を見ています)

0.上空から見た図の説明

いきなりこの図を見せられても分かりづらいかもしれませんね。細かい点は順に解説していきますが、大雑把に説明すると以下になります。

● 全体図・・ イメージし易いように関東地方の地図に当てはめて作りました(関東圏以外の方はごめんなさい)。

● 丸の一つ一つがセル(積乱雲)です。発生した時は積雲です。

● 同じ色のセルが、言わば個人として一生を送るセルになります。

● 左下の「セルの一生」にあるように、セルが生涯のどの段階にあるかを丸の大きさや枠などで表現しました。(衰弱期は色を薄くしてあります)

● 風の流れを矢印で表しました。

● この日は下層では湿った南風が、中層では西風が吹いているとします。

● 下層と中層とでは風向きが異なります。これが前回の記事で触れた、鉛直シアが大きいということです。

横から見たイメージ図については随時説明を加えていきます。では、時間の流れを基に、一つ一つ追っていきます。

1.最初の雲の誕生(1:00)

午後1時、湿った下層の南風によって関東北西部(左上)に積乱雲へと成長する新たな雲が発生、発達します。

横方向から見ると南(図の右側)からの暖かく湿った空気が雲を作ります。

山があるとより発生しやすいでしょう。

2.成長期の積乱雲と新たな雲の誕生(2:00)

赤のセルは中層風に流されて東に移動しながら成長し続けます。

その南側には下層風により、また新たなセル(青)が発生します。

発達段階の違う2つのセルが一つの雲の塊(点線で囲んだ部分)を作ります。

また、②の図から分かるようにどちらのセルも上昇気流だけが見られ、引き続き発達し続けます。

3.ガストフロントによって新たな雲が誕生(3:00)

2つのセルは中層風によって東に流されながらさらに発達していきます。

最初のセル(赤)は成熟期に達して下降気流が生じ、ガストフロントが周囲に広がっていきます。

雲の塊の南側に達したガスフロントと南からの下層風がぶつかると、小さな寒冷前線の様な構造になります。ここで強い上昇気流が発生します。

この上昇気流によって南側で新たなセル(黄色)が発生し、成長期にある青のセルもさらに強められます。

4.マルチセル型雷雨の完成(4:00)

発達段階の違う3つのセルは中層風によってさらに東へと移動して行きます。

この頃には最初にできたセル(赤)は衰弱期に入り、弱い下降気流を伴いながら消滅へと向かいます。

一方、成長期だった青いセルは成熟期に入り、強い下降気流がガストフロントを生じさせます。

ガストフロントと下層風の南風がぶつかり、新たな雲(緑)が発生します。

この時点で4つの段階の雲で一つの大きな雲の塊(点線の部分)が出来上がります。

この積乱雲の大きな塊のことを クラウドクラスター と言い、上空から見ると一つの雲のように見えますが、実際には上記の説明の通り、内部では様々な発達段階の違う積乱雲で成り立っています。

さて、ここまで説明のために下層では南風、中層では西風と仮定して話を進めてきました。

でも、マルチセル型雷雨というのは面白いもので、必ずしも下層や中層の風向き通りには移動して行きません。その仕組みを次回調べていきます。ややこしいけど面白いというのが分かると思います。