そもそも偏西風の蛇行が次第に大きくなるのはなぜ?
傾圧不安定波は時間とともに蛇行が大きくなる波なので、この点が理解できないと もやもやが残ります。ということで今回はそこに焦点を合わせて考えていきます。大きな要素は温度移流です。
まずは、ここ何回かに分けて傾圧不安定波による熱輸送のサイクルについて書いてきたので、その全体像を見てください。
今回扱うのは上の図の中央、緑で囲った「蛇行 小 中 大」の部分ですが、特に蛇行の始まりの仕組みについて考察します。
偏西風の蛇行については「傾圧性大で不安定」の記事で渦(上記図でいうと循環)という要素で書きました。
もう一つの重要な要素が「温度移流による気圧の谷の深まり」です。例によってイメージ図を使って説明します。
はじめに
下の図は「図解気象学入門(講談社)」に載せられていた図を基に描いたものです。上層の偏西風が吹いている辺りの高層天気図と考えてください。
4色に色分けされていますが、これは気温の違いを示しています。各色の境に等温線があると思ってください。北の青は気温が低く、南の赤に向かって暖かくなっています。(下の方が一部黒くなっていますが、ここも赤だと思ってください)
番号の1~4の順で偏西風が蛇行していく様子を描いています。これから番号順に説明します。
1.蛇行前
偏西風は蛇行していません。等高度線も等温線も東西に真っすぐ伸びています。
2.温度移流の始まり
偏西風の流れにわずかな擾乱(風の乱れ)が生じます。この時点ではまだ等温線は真っすぐです。すると次の現象が起きます。
2-1 寒気移流・・偏西風が南に向かうところで北側の寒気が等温線を横切って南の暖気側に流れ込みます。この時、寒気は重いので沈み込みながら南下します。
2-2 暖気移流・・南に下がった偏西風が元の位置に戻る時には、南側の暖気がやや上昇しながら北側に流れ込みます。
2-3 寒気の入ったところでは気柱が冷やされ上空で気圧が下がります。そのため等高度線は南側に湾曲します。
参考 ⇒ 「高気圧の上空は低気圧?」
3.蛇行が大きくなる
一旦等高度線が湾曲し始めると湾曲に沿って偏西風が吹くため、さらに寒気移流が強まり等高度線が南側に湾曲します。
このことはまた、等高度線と等温線が交わる角度が直角に近づくほど温度移流は大きくなるということを示しています。
寒気が入り込んだ結果、上層の等温線も南に湾曲し始めますが等高度線ほど大きな湾曲はしていません。
逆に暖気移流のあるところでは等高度線、等温線ともにわずかに北に湾曲し始めます。
4.気圧の谷と気圧の尾根
こうした経過で温度移流と偏西風の蛇行が強まっていき、等高度線も南北に大きく波打つ結果、気圧の谷と気圧の尾根が明確に現れてきます。
このようにして温度移流と偏西風の蛇行が相互に強め合う結果、時間と共に振幅が増大する波動としての傾圧不安定波が発生・発達するというメカニズムが出来上がります。
傾圧不安定波と温帯低気圧は切っても切れない仲なので、傾圧不安定波の発達と同時に温帯低気圧も発達します。次回はそこに焦点を当てて書きますね。