偏西風が蛇行するとなぜ風の収束と発散が生じるのか、それが今回のテーマです。
ここ何回かに分けて傾圧不安定波による熱輸送サイクルについて考慮してきました。下の図はその全体像です。
前回の記事では中緯度で南北の気温差の拡大から傾圧不安定波の発生までを取り上げました。今回はその続きで、上の図の淡い緑の線で囲まれた部分を考えます。
傾圧不安定波と温帯低気圧は密接に結びついていますが、それをつなげるのが風の収束と発散によって生じる下降気流と上昇気流です。その仕組みを下のイメージ図で説明します。
1.隠れている渦
● オレンジの矢印は偏西風の流れです。矢印の長さは風の強さ、つまり速度です。
● くねくねした黒い線は高層天気図における等高度線です。偏西風の蛇行に伴って湾曲しています。
● 北側(図の上側)に膨らんだところが気圧の尾根(H)、南側(図の下側)に膨らんだところが気圧の谷(L)です。
● 気圧の尾根には高気圧性の渦(時計回りの風)が隠れています。
● 気圧の谷には低気圧性の渦(反時計回りの風)が隠れています。
2.遠心力
● それぞれの渦には外側に向かって遠心力が働きます。
● 高気圧性の渦では気圧傾度力と遠心力の作用する方向が同じになるため風の強さが増します。⇒ 「傾度風1」を参照
● 低気圧性の渦では気圧傾度力と遠心力の作用する方向が反対になるため風の強さは弱くなります。
3.追いつかれる
● 遠心力によって気圧の尾根に沿って吹く偏西風の速度は速くなるのに対し、気圧の谷に沿って吹く偏西風は遅くなります。
● そのため、気圧の尾根からの速い風が気圧の谷を回る遅い風に追いついてしまいます。
● すると空気が集まって、つまり収束となり、行き場を失った風の一部が下降気流となります。
4.引き離される
● 一方、気圧の谷を回る遅い風はその先の気圧の尾根を回る速い風に追いつかなくなります。
● 空気が発散して、足りない空気を補おうとして下からの上昇気流が起こり空気が供給されます。
このようにして偏西風の蛇行が収束と発散を生み出し、下層の温帯低気圧と上層の偏西風、つまり傾圧不安定波とが結びつく立体構造が出来上がります。
次回以降の記事では温帯低気圧の構造とライフサイクルについて考察します。ここまで来るのが長かったです。