傾圧不安定波は3次元で理解し、プラス時間で定義する。
同じような波を表すのに どうして「偏西風波動」じゃなくて わざわざ「傾圧不安定波」というピンと来ない呼び方をするのか、それが今回のテーマです。
状態と一生
偏西風波動のうち波長数千キロ規模のものと傾圧不安定波は同じ意味で使われることが多いですが微妙に意味が違うと思います。まず「偏西風波動」というのは単に偏西風が蛇行している状態、また波が伝わって行くという性質に重きを置く言葉ではないかと思います。
それに対し、「傾圧不安定波」は時間という要素に着目し、その波の言わば一生を表現している言葉と言えるでしょう。
誕生と成長
一生とは誕生から成長、引退までのことです。つまり傾圧不安定波は
1.誕生・・「傾圧」が「不安定」になって「波」が生じる
2.成長・・傾圧が安定するまで波は成長する
3.引退・・切り離されて役割を終える
これらの過程を知るには上層から下層までの大気全体とのかかわりを3次元的に捉える必要があります。
今回は 1.の誕生について知るために、傾圧不安定波に至るまでの関係する言葉の意味を整理します。イメージしやすいように大気の一部を東西南北と高度で表す箱に見立てた図を用意しました。
1.傾圧
実はこれが一番分からなくて、「傾圧」の「傾」とは何が傾いているのかが、いろいろ調べてもはっきりしたことが書いてありません。気圧の傾きなのか温度の傾きなのか?ネットで調べて出てきたのは次の説明です。
「等圧面と等温面(または等密度面/等比容面)が一致しない状態」(日本大百科全書)
これ以上深入りするのはやめて次に行きます。いずれ分かったら追加します。
2.傾圧性がある
等圧面と等密度面が交わっている状態
3.傾圧性が大きい
「等圧面上で温度の水平傾度が大きい」(一般気象学)
4.傾圧大気
水平面(上空から見たイメージ)として上記図の箱型の蓋の部分で表しています。
鉛直面としては以前の記事「3次元で大まとめ!偏西風波動の前と後(傾圧不安定波2)」に載せた下記の図で表現できます。
傾圧大気とは簡単に言うと
等圧面と等密度面(等温面)が交わる大気
または
『水平温度傾度が大きく大気の傾圧性が大きくなっているような状態の大気』(気象予報士かんたん合格テキストを参考)
となります。
最初のイメージ図にあるように高層天気図で等圧面を見ると等高度線に加えて等温線も引かれているのが分かります。
風に焦点を合わせた説明としては
「南北の温度変化が急で、上層へ行くと風速が大きくなっている大気の状態」(図解気象学入門)
「風速が高度とともに増大している大気」(一般気象学)
以前扱ったように大気に温度差がある場合、温度風の関係により地衡風は上空に行くほど強くなっていきます。つまり鉛直シアが大きい状態です。
図では地衡風をオレンジの直線の矢印で示しています。
5.傾圧不安定
傾圧大気において南北の温度差が大きくなり(傾圧性が大きくなり)、地衡風の鉛直シアがどんどん大きくなって運動力学的に不安定になった状態。
6.傾圧不安定波
傾圧大気中で時間と共に振幅が増大する波動
「時間と共に」とあるように単に偏西風波動と呼ぶ場合との違いは、時間が経てば経つほどより蛇行していくという点を強調していることにあります。(図では下の3つの箱のオレンジの曲線で表しています。)
ここが 傾圧不安定波は 3次元 で理解し 時間 を加えた4次元で定義するという意味です。
まとめると
傾圧不安定波という言葉は「傾圧」が「不安定」になって「波」が生じるという成立ちを示唆しています。
ここまで言葉の意味を調べてきました。でも以下の事柄が疑問として残ります。
● なぜ傾圧大気の傾圧性が不安定になると傾圧不安定波が生じるのか
● 一旦発生した傾圧不安定波はどのようにして成長するのか
● その成長は温帯低気圧とどのようにかかわるのか
これらの点については別の記事で取り上げます。
また、温帯低気圧を含めた立体像は以下の記事で紹介しています。
最後まで読んでくださりありがとうございます。