台風の風が最も強いのは雲の下?雲の中?雲の上?
台風の強さを示すのに、よく「中心付近の最大風速は~メートル」という言い方を聞きます。
この場合の「中心付近」というのは普通 地表面(海上・陸上)における中心付近です。
では上空の風の強さはどうでしょう?地表より強いでしょうか?強そうな感じがしますね。富士山の山頂って風が強そうですし。それを考えるために上記の図を作りました。
1.イメージ図の説明
1-1 図の左側・・ 水平面
高度別(hPa で表現)の等圧線(等高度線)と風の向き
1-2 図の右側・・ 鉛直面で以下を表現
◎ 大気の構造
◎ 低気圧性と高気圧性(風の強さと向き)
◎ 気圧傾度力と摩擦力の大きさ(三角で表現)
では、まず、鉛直面の方から考えていきます。
2.大気の構造(上から)
● 対流圏界面(台風の雲の高さの上限)
● 自由大気
● 自由大気と大気境界層との境(台風の場合、地上1.5~3 km付近に位置する )
● 大気境界層
3.高気圧性と低気圧性
台風は下層ほど低気圧性が明瞭で、風の向きは反時計回りです。
一方、上昇気流が圏界面に阻まれ四方に発散すると高気圧性になり、風の向きは時計回りになります。
4.気圧傾度力と摩擦力
4-1 気圧傾度力・・ 黄色の三角
上記のように低気圧性が明瞭になるということは気圧傾度力が大きくなることを意味します。天気図で見ると等圧線が混んできます。
図では黄色の三角の底辺の幅が広いほど気圧傾度力が大きいことを示しています。
気圧傾度力が大きいほど風は強くなるので、気圧傾度力が最も大きい地表付近の風が最も強いはずです。
4-2 摩擦力・・ 茶色の三角
地表では摩擦力が生じます。図では、茶色の三角形の底辺の幅が広いほど摩擦力が強いことを示しています。
摩擦力は上空に行くほど弱くなりますが、大気境界層と自由大気との境までは働きます。
大気境界層の上限は一般的には高度1km ほどですが、風が強いと高度3km 付近までになることがあります。
摩擦力は風の勢いを弱めるので、地表付近で最も風の強さの減衰が大きくなります。
5.風が最も強い高度は?
最大風速が見られる高度は、風を強める気圧傾度力と風を弱める摩擦力との兼ね合いによって決まります。
実際には大気境界層と自由大気の境付近である 高度 1.5~3km あたりということになります。
でも幾つかの観測によると、そんなに単純なものではないようで、その点はまた別の記事で詳しく扱う予定です。
6.高度別の風の向き
これについてはこれまでの記事でも少し取り上げました。図の左側を見てください。先に中層を考えます。
6-1 中層(600~400hPa、高度5000m 前後)
壁雲における風・気流を鉛直面で見ると上昇気流、水平面で見ると傾度風、立体的に見ると反時計回りのらせん状の上昇気流ということになります。
中層では摩擦力の影響を受けないので、風は収束も発散もせずに上昇していきます。
6-2 下層(地表)
傾度風に摩擦力が加わると風は気圧の低い中心に向かって吹き込み収束して行きます。中心付近で行き場を失った風はらせん状に上昇していきます。
6-3 上層(200hPa 以上、高度約12000m以上)
対流圏界面まで上昇した気流はそれ以上は上昇できず、周囲に吹き出し発散します。発散した風は高気圧性の時計回りの風となります。
以上が高度を加味した風の強さと向きです。台風の風については、まだまだ考える点がたくさんあります。例えば「動径速度成分」とか「角運動量保存則」等々。さて、次は何にするか 🙄